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ビンスと別れて数刻後、玄関のドアのベルが鳴った。普段ならこの時間に開けないけれど、ビンスのことがあって扉の前で「誰ですか」と尋ねた。「お前のかっけー兄ちゃんのアンドリューだけど」と不機嫌な声色はたしかに兄のものだった。
がちゃり、と開けたら少し精悍な顔つきになった兄がいた。甲冑を着たまま帰ってきたらしかった。甲冑は戦争の生々しい薄汚れた血が黒く変色していたるところについていた。リリーはその様子が末恐ろしく感じ、小さくひっと悲鳴を上げた。
「お兄ちゃん!!死んでないよね!?」
兄は恐ろしいほど眉毛を釣り上げ、口角をひきつかせた。
「…あぁ、なんだ?幽霊と勘違いしてるのか?勝手に殺しやがって」
ドスの利いた声でリリーに凄むと、さっさと家に入り甲冑を脱いだ。
しかし、そんな兄の変わらない姿にリリーは嬉しくなった。
リリーはせめてものいたわりで、温かい紅茶をいれようと鍋にミルクを沸かした。
そしてミルクが沸騰する寸前で火を消し、オリジナルにブレンドした茶葉をフィルターにいれて鍋に放りこんだ。蓋をしてしばらく蒸らす。兄の好きだったミルクティーだ。


