宛先不明の伝書鳩

「好きなんだ、リリー。君の刺繍をみて戦場で生きのびてやるって気持ちがわいた。絶対帰ってくるって誓って」

頬に寄せていた手を滑らせて、リリーの手を取り顔を寄せる。
ちゅ、と手の甲にキスを落とす。さながらそれは絵本に出てくる騎士のようで。


「私も…好きよ、シグ」

どちらからともなく身体を寄せあいキスをした。
その様子を後ろからこっそりビンスとおばさんに目撃されていたこと、その後結ばれた二人のデート中に兄がシグに決闘を申し込もうとしたこと、あの鳩は元々軍用で育てられていたのにもはや家に住みついてほぼ飛ばなくなったこと。色々あったけれど、シグがハンカチに刺繍を頼むたび当時のすれ違いを思い出して一人小さく笑えば、シグと思い出話をして楽しんで過ごしている。