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一方その頃。
項垂れる男が一人。かろうじて人の形を保っているが、魂が抜けきったように放心している。ハンカチを送ってくれたのが、心の拠り所になっていたのがリリーでなくて母親だったなんて。自室のベットの上に転がりながら頭を抱えていた。
『あ、そのハンカチ使ってくれてたんだねえ!!母思いで嬉しいよ本当に!!』
久々に帰ってきた家は温かくて、うっかり涙が流れるかと思った。ただ、ハンカチの真実を知った時は別の意味で涙が出るかと思った。母親は生きて帰ってきたこと、また後生大事に送ったハンカチを大事に持っていてくれていることに感激して鼻をすする音が聞こえるくらい感極まっている。そのテンションと相反するように、自分が砂と化してさらさらと散っていくのを感じた。
戦の召集の手紙が来たときは流石に動揺した。模擬戦はいくらでもやったが実戦は死を伴うのだ。士官学校で、アンドリューと同室だった。彼は遺書を残していた。妹に当てた手紙と、俺の家にあてたものだった。縁起でもないというと「残さないとあいつは独りぼっちで死んでしまうかもしれないだろう」とやり切れなさそうに呟いた。記憶にあるアンドリューの妹、リリーとはあまり話したことがなかった。


