リリーからしてみれば、幼馴染のビンスの兄というだけである。
お互いがだんだん雲行きが怪しくなってるのを感じ、途中まで張りあげていた声はどんどん自信なく迫力がなくなっている。兄の瞳は困惑したように揺れている。
これまで兄と話してきてこれほど話題が噛み合わなかったことなんかない。
だからこそなんでこんな話になっているのか、全く分からなかった。
兄は頭を手の甲でおさえて、考え込むように黙り込んだ。
リリーは自分の冷めきった紅茶を飲んだ。胃の底がぐるぐると音を立てて身体が冷えていくような気がした。村にかえってあまり交流のなかったシグと相思相愛に思われる要素がひとつ思い浮かんだ。
「…ハンカチ」
ぽそり、と呟けば兄はぱっと顔をあげた。
「お前、やっぱりあげてるんじゃないか!!」
怒鳴り声に近い大きな声に、リリーは反論した。同じように大きな声で。
それに、あの、ハンカチは。
「ビンスのお母さんに依頼されて作ったものなんだもん!!」


