好いてる相手だろうがー---。
そう言い放つと、嫌そうに顔をしかめた。言いたくなかった、そんな表情である。
が、リリーは理解できなかった。
誰を、私が、好きだって?
リリーはもう一度その言葉が幻聴でないか確かめるために兄の言った一言を噛みしめる様に復唱した。
「好いている相手?私が…?」
あまりにも身に覚えがなさ過ぎて驚愕したように兄を見つめると、兄は怪訝そうに見つめた。苛立ったように髪の毛をぐしゃりと掻きむしる兄は「あーもー!!」と雄叫びのように声を張り上げた。
「だから!!お前の恋仲のシグのことだろ!!恋人なんだろ!?」
「は!?なんで!?」
思わずカエルが踏みつぶされたようなひしゃげた声が出た。
鼻水だって少し出た。それでも兄は構わず続けた。
「好きあってるんだろ!!」
「ほとんど話したことないよ!!」
「それでもお前は好きなんだろ!?」
「なに言っているかわからないんだけど!?」
………。
妙な間が二人を包む。
気まづそうに訝しむように兄の顔は歪む。その顔はどんどん恐ろしいものを見る様に強張っている。
「え、なに付き合ってないわけお前ら?」
「付き合う以前に話もまともにしたことないけど…」


