「何だろ、何か騒がしいね」
「ん?あー、だね、まさか芸能人とかいたりして!」
くつくつと無邪気に鈴を転がしたように笑うゆいちゃんを横目に、そんなはずはと思いつつドアの方に視線をやった。
「え………?」
それは、本当に偶然だった。
キラキラと窓の光で反射して輝く茶色い髪、二重瞼の黒目がちな瞳に、筋の通った鼻筋。薄い唇。
遠目からでも分かる綺麗な容姿。そこに立っていたのは紛れもなくあの日、受験会場で助けて貰った男の子だった。
嘘、待って、な、なんで、あの子がここに居るの、?
何かの幻だろうかと、何度も目を瞑っては開けたりを繰り返しても、目の前に映っているのは紛れもないあの日に出会った君の姿。
周りと同じ、あの日とは違う新品の紺色のブレザーに身を包んだ彼は、周りをキョロキョロと見渡しながら自分の席を探していた。
どんどん近付いてくる彼に、私の心臓は周りに聞こえてしまうんじゃないかと思うくらい、大きく高鳴っていく。
「?おーい、朱里?どうしたの?」
ゆいちゃんが不思議そうに私の肩を叩くけど、それでも視線は彼から離れなくて、女の子の視線が集中しているのに気付いてないのか、私の斜め前の席でピタリと足を止めた。
やっぱりドキドキとうるさい私の心臓。
顔が熱くなって、身体の温度が上がっていくのを感じる。
「あっ、誠じゃん!」
そうやって心の中で1人混乱している私を他所に、突然ゆいちゃんがそう言いながらヒラヒラと華奢な手を振った。
「お、ゆいじゃん、本当に同じ高校だったんだな」
「だからそう言ったじゃん!」
「まあゆいの偏差値じゃここもギリギリだったんだって?」
「ちょっ、そんなこといちいち言わないの!」
「あははっ」
花が咲くように、彼が笑った。
仲慎ましそうに話すふたりとは違って、私はぽかんとその会話を聞いていることしか出来なかった。
