男女の最後というものは、こんなにも呆気ないものなのだろうか。
『別れよう』
 視界に映るのは、SNSのメッセージ。たったの四文字で、私たちの関係は終わった。
 真っ暗な画面を見つめて、ため息をつく。
 あれから一週間。追加の連絡は一切ない。
 分かっている。彼はそういう人だ。分かっているのに、未だに通知がきていないか画面を見てしまう。
 いくら願っても、彼からのメッセージがくることなんて有り得ないのに。
「はぁ……」
 想い続けて六年間。
 焦がれてこがれて、ようやく手に入れた恋だった。
 それなのに……。
「なにがダメだったのかなぁ……」
(自分なりに尽くしたつもりだったんだけど……)

 彼――冬野(ふゆの)真宙(まひろ)くんと私は、高校と大学の同級生で、現在同じ職場に通っている。
 高校生のときから真宙くんに片想いしていた私は、教師を目指していた彼を追いかけて同じ大学に進んだ。
 真宙くんはすらりとした長身で、頭が良くて、爽やかで……女の子にものすごい人気で、彼女が絶えたことなんてほとんどない。
 そんな彼に三度目の告白でいい返事をもらえたときは、本当に嬉しかった。
 付き合って半年。たった半年……。
 飽きっぽい彼に飽きられないように、自分なりに頑張ってきたつもりだったのに。
 押し過ぎたのがいけなかったのか、尽くし過ぎたのがいけなかったのか。
 真宙くん以外に経験がない私には、いくら考えても分からない。
「どうしたらよかったんだろう……」
 ぽつりと呟いても、この部屋に答えてくれる人はいない。
 真宙くんはもう、私のことなんてすっかり切り捨てて、同期の女の子と付き合い出している。
(未練なんて言葉、真宙くんは知らないんだろうな……。というか、彼氏どころか職まで失うとは……)
 真宙くんの新しい彼女にSNSであらぬ書き込みをされて炎上。それが職場にバレてちょっとした騒ぎになり、仕事も辞めざるを得なくなった。
 退職のときも、真宙くんは私にひとことも残すことはなかった。あまりにもあっさりし過ぎた態度に、付き合っていたこと自体夢だったのではないかと思ってしまう。
(結局、私ばかりが好きだったんだろうなぁ……)
 彼のいるこの街を出ようと思って始めた荷造りも、なかなか進まない。だって、ここを出たら付き合ってた証すらなくなってしまいそうで。
 部屋を見渡す。
 この前までこの部屋に真宙くんがいたなんて信じられない。
(思えば私……真宙くんとお揃いのものとかなにも持ってなかったんだなぁ)
 プレゼントは私からあげるばかりで、なにも返ってこなかった。べつになにかを返してほしかったわけじゃないし、そんなことはどうだっていいのだけど。
 今さら思う。
 真宙くんと一緒にいられることが嬉しくて、私はひとりで浮かれていたんだ。真宙くんの心を置いてけぼりにして。
「重かったのかな……」
 殺風景な部屋の隅で項垂れていると、スマホが小さく振動した。
『明日の夕方、時間空けておいて! 午後五時半、池袋集合!』
 高校時代からの親友・白峰(しらみね)沙羅(さら)からのメッセージだった。
「明日の夕方……」
 どうしよう。
 仕事を辞めて、やることもない。時間はいくらでもあるけれど、正直気が乗らない……。
 続けてメッセージが届いた。 
『実はね、私、好きな人ができたの!』
「えっ!」
 思わず声が漏れる。
『だからね、桜にも会ってほしいなって思ってるんだ』
 これまで仕事人間だった沙羅に、好きな人だなんて。これは大事件だ。
 彼女には真宙くんのことでいつも相談に乗ってもらっていたし、今度は私が助けてあげなくちゃ。
『わかった。明日行く』