司書は思った。本が好きな人に悪い人はいない! 閣下が令嬢と一緒にいるところを初めて見たが、優しい顔をしていたしこれは何か……良い予感がする! 
 しかしこの閣下、無骨というか令嬢が喜ぶような言葉を発するような人間には思えない……モルヴァン嬢は婚約を破棄されたといえ綺麗な令嬢だし性格もよろしいし、閣下と話が合いそうだ! 
 教科書だと思って騎士系ロマンス小説を数冊選び渡した!


「三冊も……」

 いつの間にか司書に図書館に入れられ、貸し出しの準備に入っていた。そして選りすぐりだという三冊を渡された。


「はい。私も読んだことがありますが、これは人気が出る職業だと改めて思いましたよ。たまにはこういうものを読んで乙女心を勉強してください」

 そういい司書は笑っていた。なんだか恥ずかしくなり図書館を去った。

 すぐに執務室へ戻り本をパラパラと捲ってみる。騎士が連れ去られた姫を助けに行き結ばれるという内容だった。
 ストーリーはまだいいのだが、読んでいて砂糖を吐きそうなセリフが多い……


「成程……しかし騎士なんて鍛錬ばかりでこんな甘い言葉をどこで覚えて来るんだ? どこかで使える場面があるか? それに姫様だと? 我が国に姫などいないからなぁ……」

 ボヤいているとガチャリと扉が開いた。


「レオン! ノックくらいしろ!」


 読んでいた本を慌てて隠し落としてしまった。

「したよ! いないのかと思いドアノブに手をかけたら開いたんだ! そんなに夢中になって仕事をしていたのか?」

 机の上に置いてある本を見るレオン。しまった! あと二冊あるではないか……


「……なんだ、珍しい本を読んでいるな。その本は私達のバイブルじゃないか!」


「……これがか? どの場面で?」

「読んでいて思わなかったのか?」

「この国に姫はいないだろう?」

「……それは例えだろ? 護衛する相手をお姫様とか言うじゃないか。我が家の姫とも例えられるだろう? お前の姉上も姫様と呼ばれていた」

 ……確かに。