「送っていただきありがとうございました」

 閣下にお礼を伝える。なんていい方なのでしょうか。閣下はとても落ち着いた方で、お話をしているとゆっくり空気が流れるようで心地が良いです。

「いや、礼には及ばない」

 閣下が戻ろうとすると、そこへ丁度司書様がいらして声をかけられた。どこからか帰ってきたようでした。


「モルヴァン嬢、ようこそ。おや、閣下まで? 珍しい組み合わせですね。いや、珍しくもないのかな。本の趣味は合いますからね。丁度良かった! 閣下待望の本を取り寄せましたよ!」

 じゃーん! と効果音付きで本をどや顔で出す司書様。

「届いたのか!」

「はい。受け取ってきました」

 表紙を見ると古代語で書かれている歴史書でした。古いけれど綺麗にしてありました。本の趣味というのはこの事なのでしょうか?

「珍しい本なのですか?」

「はい。実は国境近くにあるヴィゴ伯爵家の当主がお持ちで閣下が話を通してくださったのですよ。陛下も興味をお持ちで王立図書館になら寄贈しても良い。と言っていただいて今日に至ります」

「私は最近ではまで国境近くで任務に着いていたからヴィゴ伯爵と交流があったんだ」

 ……凄いですわね。こんな古い本ですと歴史的価値もありますし、譲るとなると相当な値段がつきそうですのに寄贈だなんて。


「それは閣下のお人柄でしょう! ヴィゴ伯爵は娘さんを閣下には嫁がせたかったと聞きましたよ?」

「こんな男に嫁ぐのは嫌だと伯爵に泣きついていたけどな」

 ……え?

「閣下はとても紳士的でお優しいではないですか? もしかして……影武者でもおられますの?」

 ポカンとする閣下と司書様。
 

「あら? もしかしてわたくし何か変な事を……?」

「……いえ。とんでもございませんよ。閣下の良さをお分かりだなんてさすがモルヴァン嬢です!」

 こてん。と首を傾げる。意味が分かりませんもの。閣下は顔を背けていました。失礼なことを言ったに違いありませんわ!


「申し訳ありませんでした。きっと何か変なことを言ってしまったのですわね……これ以上いますとまた口を滑らせそうなので、失礼致しますわね」

 
 頭を下げて逃げるように立ち去った。大人の男性との会話は難しいですわね。知らない内に失言をして家族に迷惑をかけるわけにはいけませんね。

閣下から逃げるようにお別れして二階のソファへと腰掛ける。

「……余計なことを言ってしまったのかしら。きっと気を悪くされているわね。顔を合わせてくださらなかったもの」

 はぁっと肩を落とす。閣下は本がお好きなのね。騎士様で古代語にも興味があるだなんて素晴らしい方だわ……