「……いや、急いではいない。それにしてもよく私が分かったね」

 急いではいないと言ってくださりました。嘘でも嬉しいですわ。お話をしても良いと言うこと?


「傘に刺繍がありましたので、失礼ながら調べさせていただきました」

 申し訳ないので頭を下げる。

「先日はありがとうございました。その後体調を崩されたりしませんでしたか?」

「君のような(可憐な)令嬢に心配されるようなら私はまだまだという事だな」

 ……何か失礼なことを言ってしまったのでしょうか? 首を傾げる。


「心配されないように鍛え直すって事だ。それにしても、わざわざ傘を持ってきてくれるなんて律儀なんだな。別に返さなくても良かったんだぞ」


 閣下の顔を改めて見ると優しそうな目をしていた。瞳は薄いグレーで艶があり透き通っていて綺麗で、青みを帯びた短い黒髪は清潔な感じでした。練習の後だけあって額に汗をかいている姿は凛々しく思えました。

 汗が目に入りそうになって思わず背伸びをして、ポケットから出したハンカチで汗を拭いてしまいました……

「なっ、」

 驚き一歩下がる閣下の姿を見て……

「あっ、思わず……ごめんなさい、汗が目に入ると痛そうなので。弟に拭いてあげる感覚で……」

 さっと手を引っ込めた。見知らぬ女が近くに寄って、汗を拭くなんて嫌ですよね……それに大人の男性に対して弟とか……恥ずかしくて穴があったら入りたいくらいです。恥ずかしくて顔が熱いです。