王立図書館の二階、古書が置いてあるスペースにはあまり人が寄り付かない。古代文字なんて好き好んで勉強するもの好きは学者くらいだろう。と言いつつもたまに来ては古書を読んでいる自分も物好きなんだろうな。ここは変わらない、時間がゆっくりと流れ心が落ち着く。


 ある日、珍しく若くて可愛い令嬢が嬉しそうに古書を眺めて鼻歌を歌っていた。そして楽しそうに古書のコーナーに居る。変わった子だな……若い子に偏見を持つつもりはないけれど古代文字なんて興味だけでは学ばないだろう。

 彼女の鼻歌はとても心地が良く、気分を良くさせるのだが、ここは図書館だし咳払いをして、私が居るという事を知らせておこう。

 すると小さな声で謝る声が聞こえた。私がいることに気がついてなかったのだろう。邪魔しては悪いと思いそっと立ち去った。こんな図体の男が本を読んでいる姿を見て怖がらせてはいけない。それに強面だという自覚もある。


 時間があると本を読むために王宮の図書館に立ち寄る。本は好きだしこれだけの本に囲まれている時間は癒される。

 国境警備の責任者として数ヶ月前に王都に戻ってきたばかりだ。しばらく王都を離れていたからたまに街の巡回も兼ねて散策したりする。新しい店がたくさん出来ていて自分の知っている街とは違って見えた。

 新しく出来たカフェとやらには令嬢二人が楽しそうにおしゃべりをしながら入って行った。ここ(王都)は平和だな。良かった、と安堵する。
 国境付近は危険物の密輸、奴隷売買、窃盗など後が絶たない。近隣諸国との戦争は数十年起きてきないが、夜はまだ危険。王都は警備もしっかりしているから日中、女性が一人で出かける時は人が多いところなら安心だろう。油断は出来ないが……


 王宮騎士団第二隊長。それが今の私のポストだ。もうじき騎士団を統括する副団長補佐となる。忙しくなる前に心を落ち着かせたくて図書館へと向かう。

 すると先客がいるではないか! もしかしてあの鼻歌の?

 そっと本棚に隠れてみる。(本棚が大きくて助かった……)楽しそうに古書に触れる彼女の手を見ると白い手袋が……彼女は古書を分かっている! そう思うだけで胸が熱くなった。するとあることに気がつく。


 このスペースは広いくせに椅子もないのか! 令嬢が立って本を読んでいるんだぞっ! 椅子くらい用意出来んのか!(椅子はあることにはあるのだが壁際だとか離れたところに設置されている)これは責任者に言っておかなくては! 椅子を置けないのかと責任者に問う。

 
 “貴重なご意見です。検討してみます”と前向きな返事が返ってきた。それからすぐに陛下に話をしたようで、王宮の倉庫にあって現在使われていないソファを譲ってくれることになったらしい。陛下もあのコーナーは気に入っているから自分の好みの物を置きたかったのかもしれない。

 彼女はソファが置いてあることをとても喜んでいたようだ。ある日彼女がソファに座っている場面を見たのだが……膝にノートを置いている! 責任者に机を置くようにと言ってみた。すると“貴重なご意見です。検討してみます”と返答された。