「なんで急に雨に降られてしまったのかしら……あんなに天気が良かったのに」

 今日はハリスと王立の図書館へ来ていました。図書館の近くにある裁縫専門店で買い物をして、図書館で合流する予定です。図書館までは目と鼻の先にあるので一人で大丈夫よ。なんて言ったのが間違いでしたわ……

 はぁ。っと肩を落とす……またハリスに呆れられちゃうわ。

「止まないわね……」

 雨音は嫌いではないけれど、少し肌寒くなってきました。

「はぁっ……」

 ……待ち合わせの時間までもう少し。どうせ濡れるのなら走って馬車まで行こうかしら? 馬車の中にタオルは用意されているわよね……

 雨の中、走る事を決意して王立図書館を見る。

「うん。距離的には近い……はず!」

 走り出そうと思った矢先に声をかけられる。

「失礼。お嬢さんもしかしてこの雨の中、傘も差さずに出て行こうなんて思っていませんよね?」

 騎士服を着た大きな男性に声をかけられた。

 「……はい、急いでますので」

 素直に答えたました。すると驚いた顔をされてしまいましたわ。


「それは感心しませんね。季節の変わり目は体調を崩しやすい。お嬢さんのような細身の体では家に帰る頃には雨に濡れて異変が出るかもしれない。お転婆もほどほどにしないとご両親が心配されますよ」

 バリトンボイスのハスキーな心地の良い声の方だわ……

「弟と待ち合わせをしているんですの」

「急いでいるのも理解しますが、弟君も濡れ鼠のような姉を見たら驚くだろうね」

 くっくっくっ……と笑われてしまいました。少しむすっとした顔をしてしまいましたわ。レディを笑うなんて! それに濡れ鼠だなんて!

「あぁ、すまない。不快な気持ちにさせてしまったかな? この傘を持っていきなさい」

 男性が差していた傘を渡される。

「それはいけませんわ! 貴方様が体調を崩してしまいますわ」

「崩れるようなやわな身体ではないんだよ。君よりも随分と鍛えている」

 服の上からも鍛えているのが分かる体躯でしたけれど。


「いえ、でも」
「こんな無骨な傘は嫌かな? 時間があるのならお嬢さんに似合いのフリルの傘を買ってプレゼントしたいところなのだが生憎、仕事中の身なのでそれは叶わないな」

「お仕事中でしたら、尚更お借りすることは出来ませんわ」

「困っている人を助けるのが私の仕事だよ。君は今確実に困っている。ほら」

 そう言って傘を渡された。女性物より大きくて重い傘だった。


「よし、これで任務完了だ」

「あ、待ってください。お名前を……」

 言いかけたところで、走り去ってしまった。歩幅が大きいのであっという間に遠ざかって行く後ろ姿……

「優しい方……」

 お借りした大きな傘を差して図書館へ向かいました。