ある日私宛に包み紙が届いた。差出人の名前はないので不思議に思い、執事監修の元それを開くことにしましたの。

「なにかしら?」

 怪しいものではないようなので近くに寄ってみる。

「ハンカチのようですね」

 包を開いてくれた使用人がそう言いました。普段は差出人のないものは処分されたりするものなのに、怪しくないからという理由で私に渡った。という事ですか?


「ハンカチ……?」

 そっと手に取ってみた。

「まぁ! これは私のハンカチですわね。たしかこの刺繍は……」

 あの時、雨宿りをした男の子のに渡した物ですわ。捨ててくださいと言ったのに……私の正体を知って送ってきてくれたのかしら? 数年経っているのに律儀な方なのね。それにしても差出人がないからどなたか分からない。

「それとこちらも」

「お花?」

「はい、庭師に聞くとラナンキュラスだそうです」

「何か意味とかあるのかしら?」

 花を贈る時は花言葉を考えて贈るのが習わしですもの。お花の意味で勘違いが生じたりしますから慎重に選びますのよね。

「黄色いラナンキュラスは“優しい心遣い”なんだそうですよ」

「ハンカチのお礼という事かしら? この花を送ってくれた方こそ優しい心遣いが出来る方ですわよね?」

 執事が頷いていた。

「お花はどうされますか?」

「せっかくだから部屋に飾って貰おうかしら」

 一輪でも絵になる可愛さがある。とても立派なラナンキュラス。選び抜かれた一本だと言うことが見てとれました。

「あ、花瓶は私のお気に入りのガラスの一輪挿しが良いわ」

「畏まりました。そのように伝えておきます」

 ハンカチは人に渡った物だし数年前の事だからすっかり忘れていたのに、思い出が戻ってきたようなノスタルジックな気持ちになりましたわね。

 こんなお返しをできる方なので、今ごろ立派に活躍されていることでしょう。名前を告げていない私の事が分かったくらいですからやはり、あの方は貴族の子息だったのでしょうね。名前を告げられないほどの高貴な方? それとも恥ずかしがり屋さんとか? ふふっ。ミステリアスな方ですのね……