「そうか……もう聞いておるとは思うが、エリックは来月リル王国の王女と結婚する運びとなった。令嬢には迷惑をかけたな」

 ……昨日お父様とお母様に聞いて驚いてしまいました。私が婚約をしたくないと言ったから? というとそういう問題ではない。と答えられました。

「いえ、わたくしこそ申し訳なく思っております。わたくしが殿下と、」
「その先は言わなくて結構よ、リュシエンヌさん。エリックは自分の為に一人の子息の将来を潰したの。リュシエンヌさんも婚約破棄された令嬢だなんて言われる事もあるでしょう? 立会いなんてバカな真似をしてはいけなかったの。両家の話し合いの元、婚約しているのですからちゃんと筋を通すべきでした。卑怯なやり方でリュシエンヌさんと婚約を結ぼうとしたその根性が許せないのよ」

 王妃様はご立腹の様で延々と話は続きました────


「コリンズ子息も悪いところがあり罰を受けた。その上でコリンズ伯爵も信頼回復に努めると言っておった。何も悪くない君も噂をされたり、エリックと話をしているという嫉妬から怪我をさせられたり、大変な思いをしているだろう。エリックのせいで離婚の危機なんて家もある様だし、このままわしらだけが何にもせんわけにはいかない」


 ? ……離婚の危機って誰の事かしら? お父様達はご存じなのかしら? お父様を見ると汗をかいているみたい。室内の温度はちょうど良いですのに。

 
「陛下、その話は」
「おぉ、すまんかった。つい口が滑ってしまったわい」

 悪気はなさそうで、お父様を揶揄っている様なそんな感じがしました。この件はこれで終わりにしましょう。王妃様の一声で今回の件は終わったという事です。陛下と王妃様がそう仰るのなら、もう私は何も言えません。



「リュシエンヌ、もう少しだけ陛下と話をするから少し待っていてほしい」

 大人だけでのお話ということですよね? それなら私は……

「図書館に行っても良いですか?」

「あぁ。そうだね、図書館で時間を潰していてくれ。終わり次第迎えに行くよ」

「分かりましたわ。わたくしのことは気になさらずに」

 ごゆっくりと。と言いかけてやめた。だって陛下も王妃様もお忙しい中お時間を割いてくださるのですものね。ごゆっくりと、という言い方はよろしくありませんわね。