「あれ? リュシエンヌどうしたの?」

 会いたくない方に会ってしまいましたわ!

「……ご機嫌よう」

「どうしたの? そんな壁側に立って? 私のことを待っていたとか?」

 そんなわけありませんわよ! 帰りたい一心で壁際に立っているのです。

「腕、どうかした? 庇っているように見えるけど」

 意外と観察力が鋭いことに驚きました。って失礼ですわね……

「いえ。気のせいですわ」

 にこりと笑おうとした瞬間でした。

「どうしたの、制服汚れているじゃないか」

 驚き声を顰める殿下。気を遣ってくれているようです。

「……転びましたの。館長様のことは言えませんわね」
 
「……そうか、だから壁際に? 休憩が終わるまでまだ時間がある」

 と言って制服の上着を脱ぎ私の肩に掛けました。

「いけませんわ、殿下の制服が汚れてしまいます」

 デザインは同じだけど、殿下の制服の生地は明らかに高級なものです。すぐに返そうとしますが頑なに拒否されました。

「私は替えを用意してあるから着て欲しい。そのままでは帰れないだろう? どこで転んだらそんなに汚れるんだい?」

 カバンを取られ、馬車まで送ると言われました。カバンを持っている時点で私が帰ろうとしている事がバレたようです。

「結構です、自分で」

「何言ってるの? そんなにゆっくり歩いて怪我をしているんじゃないのかな? 君を抱えていくくらい出来るけど?」

 と言われると馬車まで送ってもらうしかなくなってしまった。抱えられたら注目の的ですもの。大人しく馬車まで送られてきました。

「で、どこで転んだ?」

 言わないと馬車の扉を閉めてくれませんのね。

「南校舎の一階廊下です……」

「分かった。お大事にね」


 やっと解放されました。馬車の揺れでお尻が痛くて蹲りながら家路につきました。

 お母様は驚きすぐにお医者様を呼んでくれて、きちんと調べますと、尾てい骨強打と右腕の痛みと言うことで、馬車に揺られる事ができないので暫くは休むことになりました。長時間教室の椅子に座るのも……ちょっと厳しいと思いますわね。