「あら! どこで落としたのかしら。とても大事にしているものでしたのよ。ありがとうございます。貴女は確かモルヴァン伯爵夫人でしたわね」
「はい。そうです」
「よろしかったら少しお話し致しませんか?」
そう言われてしまってはお断り出来ないので“はい”とお答えしました。
「こちらへどうぞ」
案内された場所は広いテラスで席の準備がされていました。
「こちらに座ってお待ちになって。今スイーツをお持ちしますわね」
すぐに戻ってくるでしょう。と思い席についてお待ちすることにしました。このテラス席はとても眺めがいいのね……景色を楽しんでいたら人影を感じたので、そちらを向きました。
「お待たせしましたわね」
「え! お、王妃様……」
王妃様はにこりと微笑みかけてくださいました。慌ててカーテシーをしましたら、椅子に座るようと言われご自身も向かいの席にお座りになられました。驚きと緊張のあまり、ドキドキが止まりませんわ。王妃様とこんなに近くで二人になるのは初めての事でした。
「驚いたでしょう? ごめんなさいね」
「いえ。とんでもございません。王妃様とお話できるだなんて光栄な事でございます」
公の場以外でお話をさせてもらったのは学生時代以来の事でした。
「モルヴァン夫人は学生時代と変わらないわね」
「とんでもございません。王妃様こそ学生時代から変わらず美しくて神々しくて緊張しています」
……王妃様は皆さんの憧れのお姉様でしたもの。もちろん私もその一人。
「まぁ。お上手ね。私も孫ができて、もうおばぁちゃんですもの」
王太子殿下にはお子様がいらっしゃいますもの。おばぁちゃんだなんて……一緒にいてもお子さんにしか見えませんわよね。
「もうすぐ王太子妃様に第二子がお生まれとお伺いしております。楽しみでございますね」
「そうなのよ! 上の子は後継を産んでくれたし、あとは下の子が問題なのよ……」
……そう言う事でしたか。うちの娘との話ですわよね。