「エリック、貴女気になっている令嬢がいるんですって?」

 父が母に話をしたらしい。面倒だな……と思うが母を味方にできれば!

「はい。モルヴァン伯爵の長女リュシエンヌ嬢です」

「……確か婚約破棄されたばかりじゃないの」

「えぇ。相手のコリンズ家の有責での婚約破棄となりました」

「それはそうですけれど、婚約破棄をされた事に問題があるんじゃないかしら?」

 そうなんだ。古い考えではそうなんだ。相手がアホだったんだけど……貴族の間で面白おかしく噂をされた事があったんだ。だからすぐにコリンズ伯爵がうちの息子による有責と言って、噂は治った。

「あら。何も言えないではないですか? それくらいの覚悟で婚約したいだなんて、おほほほほ」

「母上、女性が婚約破棄をされても逞しく強かに生きていく時代だと私は思っています。男の方は暫くはお咎めがあってもすぐに次の相手が出来るではないですか? それは不公平ですよ! 女性は家によっては切り捨てられ修道院へ行ったり、歳の離れた後妻や格下の相手としか婚約できないなんて馬鹿げています。ですから私が彼女と結婚することにより、そういった悪い習慣を正したいと思っているのです」

 言い訳だ……しかし母上も女性。しかも国の女性代表として分かってくれるはずだ!

「……確かに。女性だけが罰みたいになっているわね」

「でしょう!? 私と結婚することにより女性も例え婚約破棄をしても、されても、幸せになる権利があるという事を世の中に知らしめたい! そう思っています」

「悪くはない話だけど、そんなのモルヴァン伯爵令嬢だけではないでしょう? まだ他に婚約破棄をされ家に閉じこもっている令嬢や修道院へ入っている令嬢はいるわね。モルヴァン伯爵令嬢よりも適齢期の令嬢が!」

 ……そうだった。

「他に言い訳はないの?」



 

「……ただ私が彼女に好意を持っているからです」


「あら、そう」

「……はい」

「お話が以上なら戻ってよろしい」


 扉を閉めた。


 ……余計なことは言わずに好意を持っている。と言っておけば良かった。婚約破棄をされたとしても彼女は彼女ですから。と言えば良かった。彼女と婚約をするに当たって悪い印象になった事だろう。