『意味がわかりませんわ。殿下はもの好きなんですか?』

 真顔で断りを入れて欲しい。と、言う我が娘リュシエンヌ。エリック殿下が好きとか嫌いとかそう言うのではないらしい。

『気さくにお話をしてくださいますけれど、それだけです。親切な方ではありますわね』

 コリンズ子息とリュシエンヌは親同士が決めた婚約相手だった。家的には悪くない話で、第一印象は二人とも悪くなかった。だから仲良くなって欲しいと思ったのだが、人生とはうまく行かないものだ。子供達には幸せな結婚生活を送って欲しい。親なら誰しもそう思うだろう。

 コリンズ子息とは縁なかった。ただ婚約破棄の場に立会いをしていた殿下がなぜリュシエンヌと婚約をしたがるのか?! 殿下はリュシエンヌにコリンズ子息の話だけを聞き、婚約破棄をしたいという友人を、手伝ったが間違いだった。と、謝罪をしたようだ。その後リュシエンヌに良くしてくれているみたいだが、謝罪の気持ちで婚約を打診されたこっちの身にもなってくれ。

 リュシエンヌは“友人が婚約破棄した相手に婚約を申し出るなんて悪趣味ですわ”と困惑している様子。

 王族と伯爵家では釣り合いが取れない。と言って断ろう。そう決めて、殿下との面談日になり王宮へ出向いた。



 ******

「釣り合いが取れない? それはまったくお気になさらずに」

 にこにこと答える殿下。

「うちはしがない伯爵家です。王族の妻になど無理があります。それとも……娘を第二夫人にと、」
「ないない! 全くありません。リュシエンヌ嬢以外に妻を娶ることなどとんでもない」

「……そうですか。私は娘の意見を尊重したいと思っております故、此度の話は身に余る話で辞退させていただく所存で御座います」

 頭を深く下げた。もう勘弁してくれ……

「リュシエンヌ嬢は私の事が嫌なのかな? それで不服なのかな?」

 ……嫌がっています。とは口が裂けてもいえまい。しかし、リュシエンヌの為にもここは引き下がれない。いや引き下がらないぞ!

「殿下に質問をさせてもらってもよろしいでしょうか?」

「もちろんです」

「娘が婚約破棄をされた際に殿下が立会いをしておられたと聞きました。それはなぜでしょう?」

「……あの時は私がバカだった……今でも悔やんでいます。クラスメイトのコリンズ子息が婚約破棄をしたいと言っていたのを耳に入れて、クラスメイトの頼みを聞いてしまって……恥べき行為だと反省をしています」

「恥をかいたのは娘の方でしょう。殿下は謂わば無関係の存在……そして殿下は立場のある方。そんな方の前で一方的に悪とされ、王宮に呼び出されたら、分かりました。と答えるのが精一杯の状況だったと思います。そんな娘の気持ちを考えると、婚約破棄の時に立会をしていた殿下と婚約をするなんて有り得ない。と私は思います。よって私は殿下と娘の婚約については賛成出来ません」

 若い娘が一対二の状態で、よく頑張ったと思う。パワハラのようなものだ。