「お父様、急ぎのお話があるとか?」

「入ってくれ」

 失礼します。と声をかけ執務室へ入る。


「リュシエンヌ、君に婚約の打診があった」

 ……あら。あれから何件かそういった話があったようですが、家同士の繋がりもあるので、その辺りは誰でも良いわけではなく、お父様とお母様が話し合いをしているのだそうです。婚約破棄をされたのだからと前回は話がなかった、商家や歳の離れた方の後妻の話もあったようで、お母様が激怒していましたわ。お父様はすぐに燃やしてしまったそうですけれど……無理に結婚はしなくても良いのだそうです。
 でも私がこの先ずっと伯爵家にいるとなると、ハリスとパティの縁談も纏まらないでしょうし難しいところですわよね。

 そんなことがありながらも、急にお父様に婚約の打診と言われましても、首を傾げてしまいますわよね。

「お父様がすぐに決めなくても良いとおっしゃったので、しばらくはそういったお話は遠慮させていただきたかったのですけど、お話をされるという事はその方と婚約をする。という事でよろしいのですか?」

「いや! それは無い! リュシエンヌの意見を聞かせて欲しいと思って呼んだんだよ」

 ……この時点でお父様の中で家同士の~という問題は無いということかしら?

「そうでしたの? ありがとう存じます」

「……………………」

「お父様様? どうかされましたか?」

「あーいや。そうだ。リュシエンヌ最近はよく王宮図書館へ行っているようだね」

「はい。学園や王立の図書館にはない書物がたくさんあって、とても勉強になりますのよ。そうですわ! 大事なことをお伝えしないと! お父様が領地へいっている間に図書館で陛下とお話をさせていただいたのですわ。偶然お会いして声を掛けてくださったのです。オススメの本まで教えてくださって夢だったのでは無いかと、未だに思ってしまいます」

「! 陛下に? それに声まで掛けていただいたのか」

「はい。お母様に言いましたら大変驚いておられました」

 お母様は本当に驚いて言葉を失っていましたもの。気持ちはよーく分かりますわ。私も驚いて失礼な事を言ってしまいましたもの……

「以前にも挨拶をさせて貰ったとか言っていたね」

「はい。やはり王宮には陛下が暮らしておいでるのだと肌で感じることができました。殿上人だと思っておりましたが、気さくな……と言うと不敬にあたりますが、お話できたことに感謝しております」

「……そうか。陛下は、うん。話に聞くとたまに出掛けてしまって周りがめいわ、いや、困惑しているようだね」

「陛下はその様子を楽しんでおられましたわ」

「そんな話もしたのか……囲い込みとかじゃ無いよな」

 ぼそっと呟く。