「ここは学園なんだから畏まらなくて良いよ。君は本当に図書館が好きなんだね」
「え?」
「先日は王立図書館で会ったよね?」
「そうでしたわね」
「何か探しているの?」
「今司書様にお聞きしたのですが、こちらにあった書物が王宮図書館に移されたとお聞きしましたの」
「そうなんだ。貴重な書物も多いから先ずはこの辺りから改修しようと話になって、急だけど天気のいい日に運び出したんだ」
「そうでしたのね」
「何か必要だった?」
「いえ。調べ物の途中だっただけですわ。王宮図書館の申請をすれば良いだけですもの」
……確か発行までに一ヶ月ほど掛かるのでしたわね。
「まぁ、そうだけど少し時間が掛かってしまうのが難点だよね……セキュリティーが厳しいんだけど……そうだ。良かったら週末王宮に来ないか?」
「え?」
「僕は王子だよ。申請をしておいてあげるよ。ついでに案内するよ」
……それはご迷惑になりますわね。お断りをした方が賢明ですわ。
「いいえ。自分でやりますわ。殿下の手を煩わす事は出来ませんもの」
「……罪滅ぼしだと思ってそこは甘えて欲しいんだけど……」
「ですから気にしておりませんと、申し上げておりますのに……」
罪滅ぼし……もう忘れてくださいな。と言っておりますのに。
「それくらいはさせて欲しい。ダメ、かな?」
……首を傾げてキラキラとした目を向けてこられて断れる令嬢はいますか? いませんわね……あまりしつこく断るのも失礼ですもの。
「それではお言葉に甘えて、」
「週末、そうだな……午前中に来てくれる? 今はバラ園が見頃なんだよ。ついでに案内するよ」
……くっ。バラ園まで。素晴らしいという噂は聞いたことが有りますわ。殿下は良い人なのか、そうでないのか、分かりませんわ。どうして私に気さくに話しかけてくれるのかも分かりませんし、行きたいけど行きたくない。そんな気持ちになりました。
教室へ戻るとクラスメイトの一人が教えてくださりました。
「コリンズ子息は学園を退学されたようですわ。ご存知でしたか?」
婚約破棄の件はなぜか噂になっており、しかも一方的なコリンズ子息の過ちとして話され、私は同情的な目で見られていました。
「いいえ。存じませんわ」
「リュシエンヌ様のお耳に入れていいのかと思いましたが、家を追い出されて領地で軟禁されたと聞いております。もう一つ噂があって男爵家の令嬢が修道院へ入れられたとか? 何でも将来ある男性の未来を潰したという話ですのよ。恐ろしいですわね」
あと数ヶ月で卒業なのに退学されたのですね。伯爵様の仕事の速さとお怒り具合が分かりますわ。