「おかしいですわね?」

 探している本がありませんわ。そういえばこの辺りにあった書物がごっそりなくなっているではありませんか!



「……もしかして盗難?」


「モルヴァン嬢、いらしていたのですね」

 司書様に声を掛けられました。

「ご機嫌よう。お久しぶりですわね」

 十日ぶり? でしょうか。司書様は細い体つきなのに重たい本を軽々と持っていました。さすが殿方ですわね。

「お久しぶりです。お元気にしておられましたか?」

「……え、えぇ。相変わらずですわ」

 ホホホホホ……と作り笑いをしました。婚約破棄されましたが元気ですのよ! とは言えませんもの。不思議そうな顔の司書様に聞いてみる。

「この辺りの書物はどうされましたの?」

「あ! そうでした。図書館の改修工事が早まりまして、この辺りは貴重な書物が多いので王宮図書館へ運ばれました」

 ……王宮図書館へ? あら。困りましたわね。王宮図書館は入るのには許可証が要りますもの。許可証は一旦許可されますと、年に一度更新をしなくてはいけなくて、貴重な書物の取り扱いになるので十七歳以上になると申請が出来るようになりますので、この機会に申請をした方が良さそうですわね。

 ハリスはまだ十五歳だから一緒に行けないのが残念ですわ。

「あら。それは仕方がありませんわね」

 司書様と他愛のない会話をしておりましたら、司書様が急に頭をすっと下げましたので振り返りました。殿下ではないですか……私も頭を下げますと、上げて良いと言われました。