「とても良いお天気だわ。あら。水遣りが終わったところなのかしら? お花が喜んでいるみたいだわ」

 太陽の光に反射しキラキラしていてとても綺麗ですわね。風が香りを運んでくれて心地がいいですわ。

 胸に空気を送るように思いっきり深呼吸をした。

 
「はぁ。いい香り、」
「本当だね」

「! えっ?!」

「やぁ。本当に元気そうだ。私の心配はいらないようだね」

 振り返ると第二王子殿下が笑顔で立っていた。え? ダニエルはどうしましたの? ……頭を下げて控えていますわね。殿下の護衛の方に挟まれて……


「殿下! ご、ご機嫌よう」

 急な殿下の登場に驚きを隠せませんでしたわ。

「うん。ご機嫌だよ。やっと君に会えたからね」

「……? またご冗談を?」

「冗談ではないんだけれど、今時間ある?」

「申し訳ございませんが、弟が待っておりますし、この後は家族と食事の約束がございます」

「そうか。それは仕方がないね」

「あ、あの、」

「ん? どうかした?」

 どうかしたって……気軽に声を掛けてきたけれど私は殿下と学年も違いますし、言葉を交わしたこともありませんのに……困りますわね。

「先日の件でございますが、わたくしは本当に終わった事だと思っておりますし、殿下が気にかけてくださらなくてもよろしいのですわ」

「婚約破棄はもう終わって前を向いているという事かな?」

 お手紙でも言っていますのに。

「えぇ。ですから先日のことは終わらせたいのでございます。家同士の話になると思うのですが、後は父に任せたいと思います」

 頭を下げた。

「頭を上げて。わかったよ。君には笑っていてほしいから、もう前を向いているのなら安心したよ」

「……はい?」

「手紙を送ってもつれない返事ばかりで、直接会いたいと思っていたら偶然こんなところで会うなんてね。今日は図書館の視察に来て正解だったよ」

 ここは王立図書館だもの、王族が視察に来てもおかしくありませんわね。

「学園の図書館を少し改修する事になって視察に来ていたんだよ」

「改修するのですね。今の図書館は歴史が感じられる建物で素敵ですけど、床は軋むし雨漏りがすると司書の方が言っておりましたわ」

「図書館で雨漏りはダメでしょ。大事な資料も多いのだから」

「司書の方が喜びますわね。雨降りの日はバケツと雑巾を持って走り回っておりますもの」

 雑巾が足りない。と嘆いていましたわ。思い出してクスリと笑ってしまいました。


「君も手伝っていたとか? 生徒が手伝うなんて珍しい事だから話題に上がっていた」

 余計なことをしてしまいましたのね。猫の手も借りたいとういうような状況でしたもの。

「そんな君が婚約破棄をされるなんて私は信じられなくて……」

 ポツリとに小さい声で聞き取れませんでしたわ。

「え? 何かおっしゃいましたか?」

「いや、時間をとらせてしまって悪かったね。あれ? 君の弟君かな? 君によく似ている」

 キョロキョロと侍女と共に誰かを探しているようでしたわ。私を迎えに来てくれたのね。

「ハリスだわ。もうそんな時間ですのね。殿下それでは失礼致しますわ」


 なんということでしょう。手紙でお会いすることをお断りしていたのに偶然図書館で会うなんて……それにしても、失礼ながら思っていたよりお話がしやすい方でしたわね。