「モルヴァン嬢はもはや傷物ですし、二度婚約破棄されたからと言って世間はなんとも思いませんわ! シオン様が責任を取って新たに婚約を、
「黙れ。その減らず口が叩けないようにするぞ。リュシエンヌが傷物? 二度の婚約破棄? ふざけたことを吐かすな!」

「ひいっ」

 騎士団員も恐れるこの顔で子爵令嬢を睨みつける。


「レオン、人を遣すからこの二人を王宮の地下牢へ連れて行ってくれ。話は通しておく」

「分かった。とにかくリュシエンヌちゃんを安全なところへ。メイドと護衛は医務室にいる」

 リュシエンヌを探す途中でメイドと護衛を見つけた。眠り薬と痺れ薬を嗅がされたようだが意識があり医務室へ運んでおいた。余計な詮索をされないようにこの件は黙っていて欲しい。と二人に言うと頷いていた。

「リュシエンヌ、まずは二人の安否を確認するか?」

 こくん。とうなずくリュシエンヌ。怖かったよな。ごめんな。


 二人の安否を確認し私の執務室へと連れてきた。そして温かい茶を出し並んで座った。


「遅くなってすまない……何があったか言える範囲で良いから教えてくれないか? リュシエンヌを守るどころかこんな事件に巻き込まれて。隊員が起こした事は私の責任でもある。すまなかった」

 深く頭を下げた。こんな頼りない男をリュシエンヌが嫌いになるかもしれない。捨てられるかもしれないな……


「……頼りなくてごめんな。嫌になっただろう」

 リュシエンヌが何も言わないので次に発せられる言葉が怖くて仕方がない。


「……レイ様は私の言葉を信用してくださりますか?」

 弱々しい言葉だった。もちろん信用する。

「当たり前だろう。何があった?」

「レイ様が助けに来てくれるほんの少し前まで私は眠っていました。その間のことは分かりませんの。目が覚めてからはあの方に抱きつかれたのは間違いありませんし、手にキスをされて……」

 ……聞きたくない。が事実確認は必要だ。ぐっと拳に力を入れる。

「それは……怖かったな。ごめん」

 リュシエンヌが力を入れた拳に手を重ねてきた。

「レイ様のせいではありませんわ。私が油断してしまいましたし、でも気持ち悪かったです。私は……レイ様が良いです」

 ポロポロと流れる涙……申し訳なさと愛おしさが入り混じった。


 こんな事があっても私の事が良いと言ってくれるリュシエンヌ……リミッターが外れるかと思った。それだけ私はリュシエンヌを愛してしまった。