「グレイ、昨日はなんだよ! ダンスくらい踊らせろよ」

「断る」

「リュシエンヌちゃんと同じ素材の服装だったな。昔のお前からは想像がつかないぞ」

「あぁ、そうだろうな。私もそう思う」

 お揃いの生地なんて恥ずかしいと思ったが、そういう物だと思えばなんてことない。


「否定はしないんだな」

「リュシエンヌが喜ぶんだよ……その姿を見ていると可愛くてな……危険だ」

「ブラン卿も驚いていた。お前が婚約をしたから今度は私の番だ、早く相手を連れて来いと言われたよ」

「両親が心配していたぞ」

「お前にまでそんなことを言われるとは……」


 こいつはモテるから、令嬢同士トラブルが絶えない。と言っても食事をしに行くくらいで健全な付き合いだ。手は出していないそうだ。応援隊へのサービスだとか? そんなこんなで女の子と食事をするのが趣味なんだそうだ。そんなことを言いつつも……


「まだあの、令嬢に付き纏われているのか?」


「あー、付き纏われているというか、異常なくらいに私に執着しているようだな。気をつけるよ」

「一人の相手を作るとその子が攻撃されないかと心配してるんだろ?」

「それもある。いいよな、お前は。不特定多数の令嬢よりリュシエンヌちゃん一人がいればいいもんな」

「腹が立つ言い方だが、まぁ、そうだな」


 怖いと恐れられるのも慣れて来たのにリュシエンヌと出会ってからは、声をかけられる様にもなった。ただただ面倒臭い。


「お前、気をつけろよ。リュシエンヌちゃんが取られても知らないぞ」

「そんな命知らずがいるのなら、返り討ちにしてやるさ」


「恐ろしいことを笑顔で言うなよ……」

 ヒクヒクと顔をこわばせるレオン。


 取られるくらいならその相手を返り討ちにするが、好きな男ができた、と言われたら立ち直れないだろうな……