私とレイ様は“今すぐに宝石店へ行きなさい!”とレイ様のお母様に強く勧められて公爵家を出ました。

 レイ様のお兄様家族は離れに住んでいて、婚約時に両家の顔合わせでお会いする事になりました。

 公爵家の御用達宝石店では個室に案内されて、たくさんの宝石が並んでいて目がチカチカしてしまいました。


「リュシエンヌ、希望の宝石はあるか?」

 レイ様が並んでいる宝石を見ながら私に言いました。

「できればレイ様の瞳の色に似た宝石が良いですわ」

 艶のあるグレーの瞳は綺麗ですもの。

「それなら……グレーダイヤモンドですかね。お待ちくださいませ」

 店主様が席を外しました。

「リュシエンヌ、私の瞳の色と言ってくれるのは嬉しいのだが、地味じゃないか?」

「レイ様の瞳の色は透き通るようなグレーで美しいですわ。その色を纏えるだなんて夢のようですわ」

 そこに店主様が機嫌良さそうにやってきた。

「閣下、良いお嬢さんですね」

「……うむ。彼女に似合う物を作ってくれ。一ヶ月で頼む」

「……一ヶ月ですか。それは厳しいですね」

「我が家と長い付き合いだったよな? 出来るよな」

 あら。店主様が困っていますわ。

「店主様、わたくしは急ぎませんから無理なさらないでくださいませ。レイ様も無理を言ってはいけませんよ?」

「リュシエンヌは、優しいな」

 これから宝石を加工して私の指に合わせて作るのにどれだけかかるのか想像がつきませんし、他のオーダーもあるに違いないですわよね? 婚約時になくてはならないものでもありませんものね。

「お嬢様……なんてお優しい言葉を……お任せください! お嬢様の大事な指輪は私が責任を持って作ります! 一ヶ月、いえ。三週間ください」

「……オイ」

「指輪を気に入ってくださったら、お嬢様の宝飾品は是非当店をご利用ください。閣下は金額など気になさりませんから!」

「……職人さんにご無理を言わないでくださいね」

「お任せください! 出来上がり次第ご連絡を致します。いやぁ、閣下も隅に置けませんね!」

「リュシエンヌが言うと納期が早まるんだな」
 
「そりゃあ、もう」

 愉快な店主様ですわね。そう思い、お店を後にしました。でも……気になることがあって。

「レイ様は店主様と、とても良好な関係に見えましたがよく……アクセサリーをお作りになるのですか?」

「騎士団で働いていると褒賞として原石を頂く事がありそれをカフスボタンにしたりするんだ。あの店には無理を聞いて貰っている。デザインも気に入っているから利用する。それがどうした?」

 恥ずかしいですわね。こんな些細な事が気になっただなんて……