「リュシーは閣下のような方が好みなのね。身分と顔だけの騎士団員も沢山いるのに、我が娘は見どころが違うわ! 無骨そうで繊細な感じがしません?」

 ……確かに。あの閣下を虜にするなど出来ることではない。さすがリュシエンヌ。

 顔と身分だけならエリック殿下の方が上ではあるのに、拒否をした。コリンズ子息は私が決めて失敗してしまった。リュシエンヌは明らかに閣下の事を慕っている。

 本当は結婚なんてしなくても良いのだが、娘の幸せを思うと……



「そうなんだよな。閣下に気持ちがないのならリュシーを放っておいてくれ。と言った時のあの絶望した顔は中々だった。閣下を焚き付けておいたから後は任せる事にしよう。ここまで言われて何も出来ないヘタレに娘を嫁がせるなんて無理だな」

「あら。閣下も恋に不器用なのね」


「……誰のことを言っている?」


「あなたに決まってますわ。好きな子に告白できなかったでしょう?」

「今は毎日のように気持ちを伝えている……」

 ……過去のことをほじくり返さなくとも。私は見た目だけは良いようで昔から令嬢に追いかけられた。妻とは家同士親交があり、幼い頃から知っていて、優しい彼女の事を好ましく思っていた。

 一人で図書館にいる時も文句を言わず好きな時間は確保できた。
 でも不意に放っておかれているのではないか……と不安になった。彼女が好きなのに伝えられなくて、でも言わないと気持ちは伝わらない。婚約が決まった時、私は嬉しかった。勇気を振り絞り気持ちを伝えると彼女も同じ気持ちでいてくれた事に安堵した。
 彼女も不安だったのだから、これから気持ちは伝えていこうと強く思った。


「一度気持ちを伝えると溢れ出てきたよ。言葉というのは大事なんだと実感したし、君の喜ぶ顔がもっと見たいと思ったよ。リュシーが閣下を好きなら気持ちに応えるだろう。娘が幸せを掴む所を見守ってあげよう」


「リュシーから告白する事はないと思うから、閣下に頑張ってもらわないと……不器用な男性は嫌いじゃありませんよ?」

「……浮気は勘弁して欲しいかな」
「娘の相手に? ないわよ」

 くすくすと笑い合う夫婦。離婚の危機もなかったようだ。


「リュシーの相手が決まったら次はハリスとパティか……寂しくなるな」

「そうね。でも家族が増えると思ったら、そうでもないわよ。頑張って働いてその後はのんびりと二人で過ごすのも良いではありませんか? あなたは本を読んで私は刺繍をして共に時間を過ごしましょう」

「そういう時間を過ごすにはまだ早いか……とにかく鉱山周辺を整備しないとな。やる事はまだまだ沢山あるけれど、まずは明日閣下がどう出るかだよね?」
 

 ここまで後押しして何もできないのなら、一生独身決定だろ。