~グレイ視点~

「閣下本日はありがとうございました。私の家の者にまで食事を用意してくださって、貴重な本まで……それに閣下のおかげでとても勉強になりましたし、楽しい時間を過ごせました」

 嬉しそうに語るモルヴァン嬢。私といる時間が楽しい時間……誤解しそうになる。


「いや、こちらこそ楽しい時間をありがとう。モルヴァン嬢先日は差し入れをありがとう、その、う、嬉しかった。人に応援されると普段より実力が発揮出来るような気がしたよ」

 優勝して当然といえば当然なのだが、見てくれる人がいると思えば俄然やる気が出る。


「閣下はすでにお強いではありませんか? 難なく優勝されていましたもの。閣下が剣を構えている姿はとても勇ましいのに、今日のような姿を見ると、閣下の穏やかな性格と知性が垣間見られて新しい発見でしたわ」

 ふふっ……と笑うモルヴァン嬢。くそっ、めちゃくちゃ可愛い。可愛いだけではなく性格もいいだなんて……この瞬間を切り取りたい。


「……そんな事を言ってくれるのはモルヴァン嬢だけだ、私は鬼の隊長などと部下から恐れられているからな」

 これは事実だ。モルヴァン嬢の目は何かフィルターでもかかっているのか? そのフィルターが外された瞬間に急に私を見て逃げ出すのではないだろうか……

 はっ! もしかして視力が悪いとか? いや。それは無さそうだな。こんなキレイな瞳をしているのに。


「閣下は恐れられているのですか? それは実力が伴っておられるからですものね」

 ……天使だ。見惚れてしまった。


「……閣下?」

「あ、あぁ。すまない。そうだ」

 預けてあったバスケットを取りに行きモルヴァン嬢に渡す。

「バスケットを返すよ」

 モルヴァン嬢は受け取り首を傾げる。

「中に何か……」

「あぁ。それは私の気持ちだ。王都で人気だと聞いた」

「開いてみても?」

「あぁ、もちろん」

 バスケットを開け、中のものを確かめる。

「まぁ! あの行列の店の……申し訳ありませんわ」

「感謝の気持ちだから受け取って欲しい」


「それでは遠慮なく頂きますわ。これも閣下がわざわざ?」

 ハンカチの時は誰にも相談しなかったから買いに行ったのだが今回はバスケットをハンナに預けたから……


「いや。何を返せばいいのか分からず……人気のある店があると聞き、使用人が買ってきてくれたんだ」

「行列の人気店ですのに……それにこの紅茶は見た事がないフレーバーですわ」

 戸惑うモルヴァン嬢につい……


「今度はクッキーを作ってきてくれるのだろう? 楽しみにしているよ」

 顔を上げ私の顔を見ると嬉しそうに返事をしてくれた。また図書館に来るそうで、練習を見に来てくれるそうだ。次の約束があるというのは……悪くない。

 モルヴァン嬢の馬車を見送り、執務室へと行く。