「閣下は汗一つかいていませんわね」
「そりゃ、そうでしょう。トーナメント戦かぁ。あの新人隊員も運が悪かったですね。決して弱いわけではないですからね」

 ダニエルには分かるのね。さすが騎士ですわ! 準決勝の前に休憩があるようで、閣下に会いに行きます。もちろん閣下は勝ち進んでいました。

 令嬢達の大移動があり、それを見送ってから閣下の元に行きました。パーティーでお別れしてから初めて閣下に会うので、なんだか緊張しますわね……ふぅ。と一呼吸しました。
 

「閣下、お疲れ様です」

「モルヴァン嬢、本当に来てくれたのか」

「約束しましたもの。閣下は本当にお強いのですね!」

 剣を構える立ち姿からして強そうでしたわ。


「そこそこ強くないと、部下に申し訳が立たないからな。そうだ忘れないうちに……」

 棚に置いてあった包みを渡してくれた。
 

「借りたハンカチだがもう使わないかもしれないだろう? 申し訳ないから新しいものを、」

「え? 頂けませんわ。だってわたくしが勝手に、」

「捨ててくれて構わない。君にプレゼントするものだから、その後は好きにして良い」

「……それなら……有り難く頂戴致しますわ」


 捨てて良いっていわれると、なんだかショックですわね。親切で頂くものですもの。私も同じ事を言ってしまいましたわ。


「君が受け取ってくれなかったらあの恥ずかしい思いをどうすれば良いのか分からなかった」

「まさか、閣下が選んでくださったのですか?」

「ん、まぁな……」

 閣下は思いやりのある方なんですわ。相手の気持ちを考えてプレゼントしてくださるなんて。

「嬉しいですわ。大切にします」

 ……閣下とお話をしていると胸が暖かくなります。



「お嬢様、コレを……そろそろ」

 こそっとアデールが耳打ちして来ました。そうだわ! 忘れるところでした。

「良かったらこれ、皆さんでどうぞ」

 カゴにはアップルパイとミートパイが入っている。