『その、君は私が怖くないのか? 普通は怖がって近寄らないものなんだが……』

『閣下は、犯罪者とか詐欺師かそれとももっと悪い方なのですか?』

『は?』

 犯罪者? 詐欺師? どういう事だ? 


『え? 違いますの……? それでは怖いというのはどういった意味なのでしょうか?』

 本当に言っているのか? 

『……はははっ。やはりモルヴァン嬢は変わった令嬢だ。そのままの意味だ、私は自分でいうのもなんだが威圧感もあり強面で図体もデカい。だから令嬢からは恐れられているんだが、君は違うのか?』

 こんな図体の男怖いだろう? それともこの子は感覚がズレているのか? 


『見る目がない令嬢達ですわね! 閣下は優しい方ですわ。見知らぬわたくしに傘を貸してくださって、無視しても良いのにお話をしてくださったり、何よりも閣下の瞳はとても綺麗で恐ろしいなんて事はありませんもの』

 
 ……なんだこの子。人たらしなのか、天然なのか。胸が苦しくなって来た。


『やはり君は変わっているね』

『ふふっ。変わってるから婚約破棄されたのかもしれませんね』

『……見る目のない男だったんだ、君はとても可愛い』


 婚約破棄の話は耳に入っていたが、本人から聞くまで私は“知らない”つもりだった。だが本人が言ってきたから驚くことはしなかった。

 見る目がないな。こんな可愛い子が婚約者なら絶対に離さない……って何を考えているのか。突発的だったのか? 阿呆だろその男。

 
『……あ、ありがとうございます』

『礼を言うのは私の方だよ』

 こんな令嬢に未だかつて会ったことがない……