奇跡をくれた君へ




放課後、咲はホームルームが終わると待ってましたと言わんばかりに、食堂に連れて行かれた。使用する生徒はほとんどいないため、内緒話には持ってこいだろう。


「それでそれで、さっきはどこの誰と連絡取ってたの」


ずいぶんと興味津々な様子だ。話すまで帰さないという圧を感じたので、素直に答える。


「北高の木島くん」

「え、高校近いじゃん。いつ知り合ったの」


それはどうにも説明が難しい。悩んだ結果、私はありのままを伝えることにした。案の定、呆気に取られた顔をする。


「芽生、それ大丈夫なの?」


「大丈夫だよ、写真とかもよく送られてくるし」


咲に見せたのは、木島くんから送られてきた友達とパフェを食べにいったという写真だった。勝手に見せてしまって申しわけないが、やむおえないので許してほしい。 


「ちょっと待って、そのままにしてて」


写真を見せると、真剣な表情になってなにやらスマホで検索を始めた。声をかけられる雰囲気ではなかったため、そのまま作業が終わるの待つ。数分後、全身の力が抜けたようにして、咲はようやく画面から視線を外した。


「よかった、検索に引っかかってこなくて」


その言葉の意味がわからなくて、目を白黒させていると、スマホの画面を見せてきた。それをみて思わず頬が引きつったような感覚がした。


「うわ、なにこれ」


画面に写っていたのは、男子高校生が載った写真だ。しかも、どの人も一様にパフェを食べている。


「これは、テンプレ。男子高校生がパフェ食べているやつね。他にも、調べればいっぱい出てくると思う。こういうの使っておじさんが、男子高校生になりすまして女の人に近づこうとするの結構あるらしいよ。芽生の話聞いて思い出しちゃって。でも、同じ写真なかったから、本当によかった」


心底安心したような様子だった。でも、何かが引っかかってしまって、


「そうやって、なんでも最初から決めつけるのよくないと思う」


自分が思っている以上に低い声が出た。


「どうして?私は芽生を心配して言ってるんだよ」


思わぬ返答が返ってきて驚いているようで、声の震えから動揺が伝わってくるようだった。傷つけてしまったことがわかったけれど、どうしても出てくる言葉を止めることができない。


「余計なお世話だよ」

「……なにそれ、意味わかんない。気分悪い、私帰るね」


そのまま鞄を持って帰ってしまった。誰もいない食堂に独り取り残される。私もそのまま、鞄をとって図書館に向かった。駅に向かってしまえば、少し先に学校を出た咲と鉢合わせてしまうと思ったから。

市が運営している図書館は相変わらず静かで、紙をめくる音やペンを使う音が聞こえてくるだけだった。それだけがが、私の苛立った気持ちをなだめてくれた。

けれど課題に取り組もうとしても、さっきことが思い出されて、集中できない。諦めてスマホを操作する。なんとか気持ちを抑えたくて、メールアプリを開いて木島くんに送る。


――友達と喧嘩した


すると、瞬時に返事がきた。


――それはどうして?事情は?


文面をみて、どきりとした。考えなしに送ってしまったが、なんと説明するのが正解なのだろう。

あなたが男子高校生になりすましてないか、友達に疑われて喧嘩しました?いや、そんなこと言えるはずもない。


――友達にある人のこと疑われてて、それで私が怒ったって感じ


詳しい内容を伏せて伝えようとしたら、なんだか変な文章になってしまった。でもこれ以上は伝えようがないので、そのまま送信する。


――その相手ってどんな人なの?

――ごめんね、それは言えない


今まですぐに返信がきたのに今回は少し間があった。すると、画面に長い文字の羅列が広がる。


――事情は自分には推察することしかできないけれど、あんまり詳しく言えないってことはそれだけ友達が心配するような相手ってことだよね。芽生はその相手のことを疑われて悲しかったのかもしれないけれど、それって友達も同じなんじゃないかな。変なことに巻き込まれるんじゃないか、傷ついてしまうんじゃないかってそれだけ心配だったんだと思う。


読み終わった瞬間、自分のしたことの重さに気づかされたような気がした。

咲はなんの悪意もなく、私のことが心配してくれていたのに、無神経な言葉で傷つけた。木島くんのことを疑われて、腹が立ってしまった。もっと、いい伝えかたがあったはずだ。


――どうしよう、私酷いこと言っちゃった

――もう一度、その友達と話してみるのがいいんじゃないかな。大丈夫、話を聞く限りだと芽生と友達は相当仲がいいんだろ、ちゃんと話したらきっとうまくいくよ


すると猫が、がんばれ!とポーズをしているスタンプが送られてきた。その優しさがじんわりと、自分の中に広がっていくみたいだった。