「さてと。飯食うか。」

混み合った店舗を後にして佐藤さんが言った。

「何がいい?」

聞かれても困る。佐藤さんだっていちいち私の食べたいものを確認するのも面倒だろう。

「私、ほとんどなんでも食べられますから私に聞かないで佐藤さんが決めてください。ダメな時はダメって言いますから。」

それから慌てて付け足した。

「あ、いえ、もちろん聞いていただくのはうれしいんですけれど。なんかただでさえ足手まといで心苦しいんで。お昼ご飯まで気を遣っていただかなくていいです。」

「そんなこと気にしなくていいよ。後輩指導も仕事だからな。」

佐藤さんの靴の裏にはバネでもついているんじゃないかと思った。私はまた速足で必死についていった。

「始めっから役に立つなんて思ってないし。教える必要ないなら同行する意味ないし。」

佐藤さんは私の方を見て言った。

「だから足手まといなんて気にするな。そんなことくよくよ考えてる時間があるならほかに覚えることいっぱいあるぞ。」

「はい。」

私は頷いた。

「牛丼。」

「は?」

「牛丼な気分だ。」

佐藤さんはそのバネ足で牛丼チェーン店に入っていった。私もほとんど駆け足でついていった。