「ふぅん。彼氏はまーくんね。」

「まーくんにもらったわけだ。それ。」

 私は黙って背を向けて歩きだした。

「女捨ててるみたいなくせしてけっこうやるね。」

 私は無視してエントランスに入った。

「明日、6時に起こして。おやすみ。」

 私の背中に向かってナルシストが言った。

「な?」

 私はくるりと振り返ってナルシストをみた。

「なんで私がそんなことしなきゃいけないのよ?」

「さっきは俺が起こしてやっただろ?」

 してやったりという満足げな笑顔を見せるとナルシストは手を振ってくるりと方向転換した。

「6時ね。LINEとかじゃなくて電話で起こせよ。」

 唖然としている私の方をもう一度振り返ってナルシストは言った。それからまた手を振って去っていった。

「寒っ。」

 私は急いでエントランスに入った。エレベーターでフロアのボタンを押したとたんに着信の表示が出た。

 『成沢 勇輝』

 ナルサワ ユウキ。ナルシストだ。

「何よ?」

「これで誰かわかんなかったとかなしだぞ。必ず6時に起こせよ。明日は早く行かなきゃいけないんだから。遅刻したらお前のせいだからな。」

「ちょ・・・」

「じゃあな。おやすみ。」

 一方的に電話は切れた。
 腑に落ちない気持ちを抱えたまま玄関の鍵を取り出して開け中に入った。

「ただいま。」

 一応リビングに向かって声をかけてから洗面所に向かった。

「おかえり。」

 姉がトイレから出てきて無関心そうに私を見てからリビングに戻った。

 私はいったん自分の部屋に入ってバッグとコートを置いてから入浴しにいった。早く寝たかったが温まらないと眠れない。
 急いで浴槽に身を沈めた。