恋愛体質

「さっきからオマエとかバカとか。ムカつくんだけど。」

「オマエが勘違いしてるからだろ?バカ。」

 私は振り返ってキッと睨んだ。

「恐い顔すんなよ。世の中には物好きもいるんだからオマエだって夜道は気をつけるにこしたことはないんだって。」

 私は無視してずんずんと歩きはじめた。私はすごい勢いで歩いているつもりなのにその傍らでナルシストは平然と余裕の表情で歩いているのが憎たらしい。

 そうこうするうちにうちのマンションの前まで来てしまった。

「ここ?」

「うん。」

「ふぅん。」

「・・・ありがと。」

 私はボソッと言った。シャクに障るけれど、一応送ってもらったからにはお礼の1つも言えなくては社会人とは言えない。

 ナルシストはゲームに勝ったみたいにニヤリと不敵な笑いを浮かべた後でポケットに手を入れて何かを取り出した。

「これ。」

 ポケットから出したものを私の目の前につまんで見せた。

「あ・・・」

 さっき外してコートのポケットに入れた元カレからもらった指輪だった。

「大事なもんだろ?」

「返して。」

 私は指輪をナルシストの手から取ろうとした。恥ずかしかった。

 いつまでも未練たらしくそんなものを日常的につけていることも、その指輪がいかにもちゃちくて安っぽい代物だってことも、それを初対面の男と飲む前に外したってことも。

 そして何よりそんな指輪をよりによってナルシストに拾われるとは。

 ナルシストは私が取ろうとする前にさっと腕を私の背が届かない上方に動かした。

「彼氏いるのにわざわざ指輪外してまで男と飲みたいの?浮気したいの?」

 ナルシストは面白くてたまらないという顔つきで言った。

「違う。そんなんじゃない。彼氏はいない。今は。いいから返して。」

 私はナルシストの手から指輪をひったくった。

「もしかしてわざと落とした?俺に拾わせようとした?」

 ニヤリと笑みを浮かべながらナルシストは言った。

「はぁ?」

 今度は私が呆れてナルシストの顔を見た。

「なんで私が?そんなことするわけ?」

「俺の気をひきたかったとか。」