演歌界のイケオジ『神月京介』の恋心

 その日も朝から雪が降っていて、外に出られるタイミングが見つからなかった。

 ずっとペンションの中で過ごしている。

 お昼頃、食堂で窓側の席に座り、頬杖つきながら外をぼんやり眺めていると「雪、やまないね」と、きょうくんが話しかけてきた。

「ゆらちゃんは仕事とか、大丈夫なの?」
「うん。一応、事情を話して一週間ぐらい休むことになるかもとは言っておいた」
「今なんの仕事してるの?」
「地元で医療事務してる。きょうくんは仕事大丈夫なの? 忙しそうだけど」
「大丈夫。長い休み取って、今これからのこと考え中なんだ」
「これから?」

 きょうくんの頭の中では『引退』という言葉がよぎっているようだった。長い期間がんばって、安定して売れて、すごく輝いているのに辞めるってなんかもったいない気がした。でも私は今のきょうくんの表向きの顔しか知らないし、それを止める権利なんてない。

 本当に、きょうくんのこと知らないなぁ。
 さっきの電話のことも――。