極悪人の抱き枕になりました。

大学時代から付き合っている新は夏波と同じ25歳で、今はアパートでひとり暮らしをしている。
仕事は出版社の駆け出し編集者だ。


「大丈夫? なにもされてない?」


部屋に戻った途端に新が夏波の体を心配してくる。

「大丈夫だよ。なにもされてない」

伊吹は夏波に指一本として触れていない。
唯一、つい数時間前に泣いてしまった夏波を抱きしめてくれたくらいだ。


「よかった。心配したんだ、ずごく」

「うん。ごめんね」


新が心配してくれていることは、スマホに入っていた着信やメッセージを見ればよくわかった。
こうして近くにいるだけで互いに安心できていることもわかった。


「その鞄は?」


新が大きな鞄に視線を向けて聞いた。

「これ、仕事用の鞄なの。あの時無意識に持って来ちゃったんだと思う」

家で伊吹と初対面したときのことは、記憶の中であやふやになっている。
とにかく驚いて、緊張して、あっという間に伊吹に連れて行かれてしまったからだ。