「美鈴。何が気に入らない?いなくなるくらいなら言ってくれればいいのに……」
俺は怖くて彼女の顔が見られなかった。
「先生。中に入りましょう」
そう言うと、俺の腕を放して、靴を脱がせてくれた。俺に背を向けて中へ入っていく。
俺は急いで彼女の後を追った。彼女はダイニングにテーブルを挟んで座った。
だが、俺はその距離感がいやだった。俺は彼女の手を引いて、リビングの大きなソファへ隣同士に座ると手を握ったまま、彼女の顔をのぞき込んだ。
「さあ、これでいい。手を握っていないと美鈴がまたいなくなりそうで落ち着かないんだ」
美鈴は手を見つめて黙っている。
「まさか、俺が病院に泊まっていたのを勘違いしているんじゃないだろうな?」
俺は気になっていたことを口にした。
「……縁談を破棄した日から先生は私と距離を置くようになりましたよね」
美鈴は小さな声で話し出した。



