父は、穏やかな人だった。 優しくて物静かで、それは亡くなる直前迄変わらなかった。 争いを好まず、謙遜。 秋元家で、そのような人間は、他にいなかった。 けれど、英雄でもなかった。 4人家族の時だけが平和で、それ以外の毎日は、沙耶の記憶に暗い影を落としている。 父は人と対立することを、避けていた。 誰かを傷つけてしまうことを、恐れていた。 そんな父が、今ここにいたとしたら、私になんと言っただろう。