なんとか無事にトレーニングセンターに着くと、大和は恵真の肩を抱きながらビルに入る。

「大和さん、あの。一人で歩けますから」
「ダメだ。普段歩き慣れてない場所では、小さな段差にもつまずきやすいからな」

顔の火照りがようやく治まったところだったのに、また恵真の頬は赤くなる。

だが頑として大和は譲らず、恵真を守って歩き続けた。

「あ、佐倉キャプテン!藤崎さん!」

社員用のエントランスから中に入り、IDカードでセキュリティーゲートを抜けると、川原と佐野がこちらに気づいて手を振る。

「お疲れ様です。今日はよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします。子ども達、今日はパイロットに会えるのを楽しみにしていると思います」
「がっかりされないように、頑張ります」
「あら、そんな事ある訳ないですよ。むしろ大人気で、周りを取り囲まれちゃうと思います」

川原がそう言って笑うと、佐野も、サインねだられちゃうかもー、と笑う。

サ、サイン?と大和は眉間にシワを寄せる。

「芸能人っぽく、サラサラーッと書いてくださいね」
「無理ですよ!そんなの」

川原と佐野は、あはは!と笑いながら、ラウンジへ大和達を促す。

「では簡単に打ち合わせしますね。まず、ツアー開始は10時ちょうど。客室乗務員がアテンドして、施設を回ります。そのあと、CAとパイロットに別れてお仕事体験してもらいます。パイロットには、10人の男の子が希望してくれています。みんな小学生です」

資料を手に、大和は頷く。

「保護者の方は、少し離れた所から見学してもらうので、私達が誘導しますね。男の子達はコックピットのコーナーに集まってもらい、ジャケットを着ます。そこに佐倉キャプテンがジャーンと登場します」
「と、登場?!それはどういう…」

大和が面食らったように聞く。

「そうですね。その時の様子次第ですけど、とにかく、わー!っと盛り上がるように登場してもらいます」
「は、はあ…。そんな事出来るかどうか…」

早くも大和は不安げな顔をする。

「大丈夫です。佐倉キャプテンは普通にしてても充分かっこいいですから、どうぞご心配なく。簡単に挨拶したらコックピットに座って、実際に操作しながら、操縦の説明をお願いします。そのあと子ども達に、一人ずつ操縦を体験してもらい、佐倉キャプテンと記念撮影をします。あとはもう、おそらく子ども達から質問攻めにされると思いますので、よろしくお願いします」

何かご不明な点は?と聞かれ、はあ、特にはと、大和は煮え切らない返事をする。

「では、私達はそろそろアテンドのお手伝いに行って来ますね。佐倉キャプテンと藤崎さんは、まだしばらくここでゆっくりしていてください。あとでお迎えに参りますから」

そう言って、川原と佐野はラウンジを出ていった。