翌日、3月20日の朝。

フライトがある大和を、恵真は玄関で見送る。

「じゃあ恵真。行ってきます」
「行ってらっしゃい、大和さん。お気をつけて」
「ああ」

大和は恵真の頬に優しくキスをしてから、玄関を出ていった。

「さてと…」

恵真はいつもの家事をこなしながらも、どこかソワソワと落ち着かなかった。

毎日測っている体温も、いつもより高い日が続いている。

食料品の買い出しに行った際、思い切って妊娠検査薬も購入した。

夕食の準備を済ませても、やはりまだ生理は来なかった。

いよいよ緊張感が高まってくる。

(出来たのかな?私と大和さんの、赤ちゃん…)

考えただけで、顔が真っ赤に火照るのが分かった。

ソファに座り、思わず両手で頬を押さえる。

(とにかく落ち着いて。えっと、まずは明日の朝、検査薬を試してみる。それで陽性なら病院へ行って、それから…)

頭の中でやるべき事を考えていると、いきなり視界に大和の顔が入ってきた。

「きゃあ!え、や、大和さん?!びっくりしたー」
「びっくりしたのはこっちだよ。どうしたの?恵真」
「え、どうもしてませんけど…」
「そんな訳ないでしょ?玄関でただいまって声かけても返事がないし、すぐうしろから恵真?って呼びかけても気づかないし」
「そうだったんですか…。え?もうそんな時間?大変、すぐに夕食の用意しますね」
「ちょっと待って、恵真」

急いで立ち上がる恵真の手を大和が掴んだ時、恵真の膝の上にあった箱がコトッと床に落ちた。

「ん?何これ」
「あ!大和さん、それは…」

恵真よりも先に箱を拾い上げた大和が、じっと箱に書かれた文字を読む。

次の瞬間、大きく目を見開いて息を呑んだ。