お好み焼きを食べた後は解散となった。MJは次の日の早朝から予定があると言うので、ホテルへ直行してすぐに寝るのだそうだ。主要駅でMJとお別れ(パワフルなハグ!)をし、彰と紗椰は、少し離れた駅までゆっくりと歩き始めた。今日が初対面だった二人は、改めてお互いに自己紹介をした。

 紗椰は、MJと彰の掛け合いが大好きだと言った。MJとは言葉の壁があったために、彰は翻訳に頼りつつ口頭でも何かを伝えようと必死だったが、何故かその口から発せられる日本語はカタコトになってしまうのだった。紗椰はそれが面白かったと笑った。

「彰さん、出身はどこですか?」

「滋賀です」

「滋賀は関西弁ですか?」

「北の方は分かりませんが、南部は普通に関西弁ですね」

「そうですか。今もイントネーションが関西弁ですね」

「はい」

「じゃあ⋯⋯さっきのMJとのあれは…⋯何ですか…⋯!」

 紗椰はそう言ってまたクスクスと笑う。

「そんなに可笑しかったですか!?」

「はい。だって、“さかな”の話のとき、(ボク、サカナ、チガウ)って言ってたじゃないですか」

 そう、MJの勢いに飲まれながらも、彰は“さかな”の説明を無謀にも試みていたのだ。英語が話せないのにどうやって相手に伝えるかを考えながら話していると、何故かカタコトになってしまったのだ。

「耳瘻孔の話ですよね、あれ」

「はい⋯⋯。でも、どうして分かったんですか?」

「MJがメッセージで送ってきたんですよ。“私の友達が耳瘻孔だったみたいだけど、説明が下手だから揶揄ってみた”って」

「そんなこと言ってたのか…⋯」

「それで、勢いで揶揄っちゃったけど、病気のことをそういう風に揶揄うのは良くなかったかもって、後で後悔しちゃったみたいで。それで私に相談してきたんですよ」

 意外だった。彰としては特に気にしていなかったが、MJがそんな相談をしていたとは思わなかった。

「それで、私がMJに言ったんです。“あなたの揶揄い方は、人を不快にするものではないと思うから大丈夫だと思うよ”って。ごめんなさい、勝手に…⋯」

「いや、いいですよ。僕も実際気にしてないですし。それに、MJは会話の中でいつも僕を楽しませようとしているのが、何となく分かりますので」

 彰がMJと仲良くなった一番の理由は、MJのそういったところだった。彼女は彼女なりに、相手のことを気にかけてくれるのだ。
 一緒にいて居心地のいい人。MJは彰にとってそういう人だったが、紗椰と歩くこの時間は、それとはまた少し違う、不思議な安心感があった。彰は初対面の人との会話では言葉に詰まることが多いが、紗椰と話していると、お互いの言葉が楽しそうに飛び回る、そんな感覚だった。

 MJの話が沢山と、お互いの出身地の話を少々したところで、紗椰が乗る電車の駅に着いた。連絡先を交換し合って、二人はそれぞれの帰路についた。
 その日紗椰と別れて、それまで飛び回ってはしゃいでいた言葉の羽がひらひらと落ちていく様を見たとき、彰は自らの恋心に気付いた。