通訳してくれる人がいるという安心感が、MJの来日を楽しみにしてくれた。見ず知らずの他人を勝手に通訳係に任命するなど勝手な話ではあるが、それを自覚しつつも彰は上機嫌だった。通訳係の情報は女性であることと、彰とほぼ同年代であるというだけだった。MJも彰と同い年だったので、会話は弾むだろうと彰は期待した。

 MJとは心斎橋で会うことになった。MJが「大阪と言えば道頓堀とお好み焼き」と言うので、彰はその周辺でブラブラと観光に付き合おうと考えていた。
 しかし、ここで問題が起きた。通訳係と合流するのは夕方からとなった。つまりそれまでの数時間は、彰とMJの二人きりとなる。英語が話せない彰には荷が重かった。

 期待と不安が入り混じったまま、彰は待ち合わせ場所の駅へと向かった。そこにはMJらしき姿は見当たらず、辺りをキョロキョロと探していると、メッセージが届いた。

「彰と同種族の、魚の絵が描いてある壁の前にいるよ!」

 翻訳機能ではこのように表示されていた。これは誤訳ではないと彰は分かっていた。何故ならMJとのメッセージのやり取りで、そのような話題があったからだ。誤訳ではないが、誤解だ。MJは彰のことを魚人だと言うのだ。もちろんそれは冗談であるのだが、彰が伝えたかったことは全然理解していない。今日は直接会えるということで、彰はMJにそれをちゃんと説明しようと考えていた。そのためには、やはり通訳が必須だ。

 彰は、自分とは似ても似つかない魚の絵を目指して歩き出した。