「お邪魔します」

玄関先で、そう言ってから靴を脱ぐ。
高級住宅地に立つマンションは高層階。玄関だけでうちのお風呂くらいの広さは余裕である。
家に来るまではドキドキして緊張が強かったけど、入った瞬間、社長の香りがして安心感が胸に広がった。
廊下を抜けて扉を開けると、左にキッチン、奥には大きな窓がある広いリビングだった。

「凄い、綺麗……」

さすがは神野フーズ社長だ。
窓から見える夜景に、思わず感嘆の声が漏れる。

「疲れただろう。先に風呂入ってゆっくりしていろ」
「ありがとうございます」

促されるまま、教えられた洗面所へ行く。
広くて綺麗なお風呂に感動しつつ、思わずしゃがみこんだ。
いやいやいや……。
確かに一緒に居たいとは言ったけど、まさかお泊りする展開になるとは……。
社長は元から泊めてくれるつもりでいたようで、途中で必要な物が買えるようにドラックストアや衣料品店に寄ってくれた。
さすがに泊まるつもりはないとは言いにくいし、私自身、泊めてくれようとする社長の気持ちが嬉しかった。
社長と一緒にいたい。
だからこそ、泊まることを受け入れたのだ。
でもどうしよう、すごく緊張する。
別に何かあるわけじゃないし、社長だって心配して泊めてくれるのであってどうこうしようなんて微塵も思っていないだろう。
私だってそんなつもりは……、ない……。
もうこの展開に、さっきまでの不安や恐怖は消え去って行った。
単純だ、私。
単純すぎて自分でも呆れてくる。

「……嬉しい」

社長とずっと一緒に居られることが嬉しかった。
その気持ちが胸や体を支配する。
広くて綺麗なお風呂から出ると、社長に借りたパジャマに袖を通す。
大きくて袖や裾を折らなければつまずいてしまう。

「お風呂ありがとうございました」
「あぁ」

髪を乾かしてリビングへ行くと、社長はキッチンに立っていた。

「ありもので簡単に飯作ったんだ。食べないか?」

キッチンにはパスタとサラダが出来上がっていた。

「ありがとうございます。いただきます」

すっかり食欲が戻ってきた私は嬉しくなって笑顔を見せた。
私の表情に社長もホッとした顔をする。

「美味しい!」
「良かった。今度は外で美味しいもの食べに行こうな」
「はい」

今度の約束ができて嬉しくて頬が緩む。
食べ終えると、食後のコーヒーまで入れてくれた。

「なんか、至れり尽くせりですね。すみません。洗い物は私やります」
「じゃぁ、頼もうかな。その間に俺も風呂入ってくるから」

そう言うと、社長はお風呂場へ消えた。
洗い物を終えるころには社長もお風呂から上がってくる。

「ありがとう」
「あ、いえ……」

キッチンに入ってきた姿に、つい目をそらした。