しまった。完全に忘れていた。

__傘を持ってくるのを忘れた。

コンビニまでは少し距離がある。

ずぶ濡れになって買いに行けたとしても、近くに銭湯がある訳でもない。
知人の家があるわけでもない。

家族とはとっくに縁が切れているし、連絡を取り合うほど仲の良い友達は居ない。

もし連絡をしたとしても、助けに来てくれる筈が無い。


今頃あの男は、あの女と仲良く、、。

頭の中に、あの女と笑う元彼の姿が浮かんだ。

私の心の奥底から、煮えたぎるようにフツフツと怒りが湧き上がるのを感じた。

裏切られたという事実が、私にはもう何も残されていないだろうという暗示が、私をそのような感情にさせていた。

首元に着けていた、彼と初デートの際に買ったネックレスを引きちぎり、足元を濡らす大きな水溜りの中へ放り込んだ。
ネックレスが水溜まりに落ちた音さえ、辺りの轟音のような雨音にかき消された。



私の心の穴は、大きくなるばかりだ。

何か、私には大切なものがある。

それが、何なのか、どこにあるのか、どうすればいいのかさえ、分からなかった。



既にずぶ濡れになった私の体は、寒気を感じ、小刻みに震えていた。