9時半を回り、来客の姿もチラホラ見かけるようになった。

わたしとしずちゃんは教室の前でビラ配り。

「“主人公の館”だって」

「なんか面白そう」

ビラを受け取ってくれたカップルが興味を持った目で教室を覗く。

「誰でもヒーロー、ヒロインになれます! よかったらどうぞ!」

声をかけ、中へと誘導していたら、教室の隅での会話が耳に入ってきた。

「ウチ、ココ、イキタイ」
「オーゥ、イエース! ユノ、あとで連れてってやれよ!」

椅子に座ったエイミーを数名の男子が囲んでいる。

「男子はすっかり彼女のトリコだね」

「ホントだよ~。これからお客さんが来るっていうのに」

隣に来たしずちゃんと受付に座るマミちゃんも、彼らの浮かれっぷりには呆れている。

「そういえばさ、ふたりはダンスパーティーどうするの?」

「ダンスパーティー?」

聞き慣れない言葉にきょとんとするわたし。

話を振ってきたマミちゃんは文化祭のパンフレットを開いて、最後のページを指で差す。

「ああ、後夜祭かぁ」

一般公開を締め切り、片づけを終えてからのイベント。

パンフレットには「体育館でダンスパーティーが開かれる」と書いてある。

夕方からということもあってか、参加しない生徒もいるみたい。

「2年の先輩から聞いたんだけど、このダンスパーティーで好きな人に告白する人もいるんだって! 憧れるよね、そういうの」

マミちゃんはうっとりした表情で両手を合わせる。

「どうする? しずちゃん」

「わたしは行くけど」

聞いてみると、彼女は迷うことなく返事。
「じゃあわたしも……」

「果歩とは行かないよ?」

「え……」

バッサリとわたしを切り捨てる言葉。

ぽかんと口が開いてしまう。