「あなたは、代808期聖女認定者の……シャノン殿、ですね。今から四年ほど前、教会追放を言い渡され行方意不明になったという」

「わたしのこと、ご存知だったのですか……?」

「はい。僕はあなたのことをずっと探していました。言われのない罪を着せられ、いなくなってしまったあなたのことを。本当に申し訳ございませんでした」

「あ、あの……わたしなんかに頭を下げるのはどうかと……どうか顔をお上げください長さま」


 やっぱり以前の癖はなかなか抜けず、青年長を前に妙にかしこまってしまう。

 隣に立つルロウからは「なぜおまえがへりくだる?」と不満げな視線を向けられるが、それとこれとは話が違うのである。


「長さま。わたしを探していたって、どういうことですか?」


 青年長の話によると、クア教国内は5年ほど前から派閥争いが激化していたという。
 新教会派と始祖血族派の二分になっていた理由は、主に聖女の在り方に対する思想の違いである。

 新教会派は、何がなんでも大聖女を崇め、より多くの聖なる光の使徒である聖女を誕生させることに躍起になった。

 始祖血族派は、大聖女の恩恵を大切にしつつも、聖女を誕生させるまでの過程や、教会の最奥部で行われる度を行き過ぎた通過儀礼には反対の意思を持っていた。

 シャノンに冤罪を擦り付けて教会を追い出した姐聖女と司教は、新教会派の人間であった。新教会派の動向を調べていた始祖血族派は、その過程でシャノンの追放理由を知り、今まで秘密裏に探していたのだという。

 5年が経ち、ようやく始祖血族派が教会内で有利な立場となり、捜索範囲を他国にまで拡げられるようになった。

 そしてシャノンが追放されるきっかけとなった姐聖女と司教は、すでに収容所に送られ、過酷な労働を強いられているという。

 シャノンの気配を辿ること、また今までとは違い他国との交友を深めることも目的にあった青年長は、今回ラーゲルレーグ帝国にお忍び使節団としてやって来たのだった。


「どうしてそこまで、わたしを……」


 普通に考えて5年も行方意不明なのだ。死んでいると判断されても何ら不思議ではない。
 だというのに青年長自ら探していたというのは不可解な話である。


「僕とシャノン殿は、刻印によって繋がっています。教会に残るあなたの魔力の残りに触れ、あなたの首裏に残る刻印の反応で生きていることだけで分かっていました」


 それと、もう一つ……と青年長は続ける。


「シャノン殿が育った孤児院のシスターが、あなたのことを想って月に一度、都の教会に訪れては祈っていました」

「シスターが……ですか?」

「ええ。彼女は僕の遠縁にあたる方です。始祖血族としてではなく、一人の人間としての道を選び、孤児院のシスターとして子供たちの未来を願っていました。そして、シャノン殿の無事を誰よりも信じておられました」


 孤児院時代、誰よりも他人を優先するシャノンのことを、シスターはずっと覚えていた。聖女となるために教会へ居を移したシャノンのことを誰よりも心配していたのだ。