ただ、気づいてほしかった。

　家に帰ると「ただいま」をぼかしながら自分の部屋へと向かった。
　
年頃の女の子の悩みは世間からはめんどくさがられるようなものばかりだ。理由もないのにムカついていたり、仕事から疲れて帰ってきている父に暴言を吐いたりと第三者の目線からすると見ていられたものではない。

私はドラマなどによって定着が進んだ思春期の女子ほど尖っているわけではない。しかし例外にもれず立派に思春期を過ごしている。家族から向けられる期待や心配の念が鬱陶しいのだ。

　私には兄がいる。大学は医学部で両親はものすごく期待を寄せている。父は医者であり、優秀な兄を自分と重ねているのか、兄には私より多くの愛情を注いでいるのが分かった。
母も私立のトップに位置する大学を卒業しているせいか勉強にはうるさい。
「しっかりやりなさいよ、あなたのためを思って言っているんだからね」と何回言われたことだろうか。

私は勉強ができないわけではなかったが、兄より劣るためそんなに期待されたくなかった。

大学は実家から遠くの場所にして一人暮らしをしようと高校に入る前から思っていたのだった。