「兄さんが魔力持ちだったから狼に食われずに済んだ。そのせいで兄さんは人一倍苦労してるけど、それも含めて感謝しなくちゃいけないって、子供の頃父さんによく言われてたんだ」

父が私のことをそんな風に思ってくれていたなんて、思いもしなかった。

「父さんは酔うといつも兄さんの話をするんだ。兄さんは凄い、頑張ってるって、、自慢の息子だったんだろうなあ。ま、息子が教皇になったら誰でも自慢に思うか!」

そう言って、サウェリオは笑った。

10歳で家を出た私は、父の思い出なんてほとんどないに等しい。

どうせ使わないからと給金の大半を実家に送ることで、親孝行している気分になっていることを、いつも後ろめたく感じていた。

「あ、全然帰ってこなかったこと、申し訳ないとか思ってるだろ?父さんは、帰省する間を惜しんで修行に励む兄さんこそ教皇にふさわしいって思ってたし、そんな兄さんを誇らしく感じてたと思うよ」

父の想いを知って複雑な表情を隠せないでいる私をよそに、サウェリオは話し続ける。

「あの宿屋、大きいだろ?兄さんが送ってくれた金のおかげももちろんあるけど、あそこまで大きくしたのは父さんの努力の賜物だよ。兄さんの名に恥じないようにって、頑張ってたから。だから兄さんも、あんなに立派な宿屋の長男だって、胸を張って自慢してやってよ」

40年も前に家を出て、ほとんど連絡も寄越さない私を、家族として迎え入れてくれるというのか。家族とは、なんともありがたい存在である。

帰郷の機会を与えてくれた聖女。

それを許してくれた王子。

私を見捨てずに支えてくれた神父。

私にチャンスをくれた前聖女。

多くの人に施されて、私は今ここにいる。感謝する気持ちを忘れずに生きていかなければならないと、改めて実感した。

私は両親の墓の前で膝をついた。

「父さん、母さん、アムブロです。ただいま戻りました。来るのが遅くなってすみません。私を産んでくれたこと、感謝します。本当にありがとうございます」

生きてる時に伝えたかった。これまで一度も帰郷しなかったことを後悔し、涙が止まらなくなった。