聖女が私の故郷に寄ると言うので先触れを出しておいたのだが、まさかこんなことになるとは思ってもみなかった。

『歓迎!聖女様!お帰りなさい!教皇様!』

そう書かれた横断幕をくぐって街に入ると、街全体がお祭り騒ぎとなっていた。私と聖女が馬車の荷台から手を振って人々の歓声に応え、もはやパレード状態。

「聖女様ー!」「教皇様ー!」

そう呼びかけられて必死に手を振られれば、無視するわけにはいかないだろう。聖女はご機嫌な様子で手を振り返していたが、私は生きた心地がしなかった。

「兄さん、お帰りなさい。ふふっ」

実家に到着して馬車を降りると、大人になった弟が立っていた。笑いをかみ殺しているように見えるのは勘違いではないだろう。荷馬車でパレードなんて滑稽なことを考えたのは、こいつだったか。

「サウェリオ、おかしいと思ったんだ。やはりお前のせいか」

「あはははは!兄さんがいけないんですよ。たまには帰ってこいって言ってるのに、全然帰ってこないんだから」

そういって、弟が目尻に滲んだ涙を拭った。

「すまなかった。色々と苦労をかけたな。父さんや母さんのことも、本当にすまなかった。ありがとう」

「いいんですよ。わかってます」

死ぬほど恥ずかしい思いはしたが、30年振りの再会が気まずい雰囲気にならないようにしてくれた弟の気遣いに、感謝せねばなるまい。

「父さん達の墓には日を改めて案内しますから、とりあえず荷物を部屋に入れて食事にしましょう。噂の聖女様と凱旋した教皇様のために、今夜は街をあげての大宴会ですよ!」

「やったー!ご馳走ってことだね?楽しみ!」

「ん?こちらのかわいい女性が聖女様ですね?お腹は空いてますか?シェフが腕によりをかけて、美味しい料理を用意してますよ!」

「まじか!早く食べたい!お酒も飲んじゃおっかなー?」

チラッとわざとらしい目線を聖女が送ってくる。こんなあざといことをしても、何故か憎めないと感じるのだから不思議な人だ。

「はあ、自然治癒があるから問題ないと思いますが、どうなっても知りませんよ?」

「イエーイ!今夜は無礼講じゃー!」