レオンティウスが城を出てから、もう1年が経とうとしている。

弟がいないだけでこんなにも穏やかな日々を過ごせるのかと、彼を森へと追いやった母上に、感謝し始めている自分に驚く。

これまでレオンティウスがいなければと思う瞬間は一度や二度ではなく、むしろ私は、常にその考えに支配されていたのかもしれない。

弟のレオンティウスを誰よりも目障りだと感じているのは、間違いなく兄の私だ。

何をしても弟にかなうものがない。どんな努力も、レオンティウスという天才を前にすれば、無駄に終わるのだ。

母上を狂わせているのは、レオンティウスではなく、きっと不甲斐ない私なのだろう。

母上が私の手を優しく撫で、恍惚とした表情で語りかけてくる。

「アレクシウス、もうすぐ聖女が城に来るから婚儀の準備をしなくてはね。これでお前の地位は確実なものとなるわ。やっと安心できるわね」

レオンティウス達は教皇の生まれ故郷を目指して出発したと聞いていたが、母上がまた何か手配したのだろうか。

「聖女の力を手に入れれば世界を手に入れることも可能になるわ。アレクシウス、あなたは歴史に名を刻む名君になるのよ」

聖女は子供ながらに凄まじい威力の魔力を有しているらしい。果たしてそんな子供が、素直に私の妃になるのかと思うが、これもまた母上の好きにさせておけばいい。

もはや正常な判断ができているとは思えない母上の策略の結果がどうなろうと、私の関知するところではないのだ。

私はもう何年も前から、王太子という名の空の器に成り下がっているのだから。

レオンティウスではなく私が森に向かっていれば、この国はもっとまともになっていたはずだ。

今の私が王国のためにできることがあるとすれば、狂ってしまった母上と共に落ちるところまで落ちきって、一刻も早くこの茶番を終わらせることだろう。

早くその日が来てくれることを、私はただただ待ち望んでいた。