朝食のあと、聖女に魔力操作の練習に付き合って欲しいと言われ、コップに向かって魔力を注ぎ続ける聖女を眺めている。

「流す魔力量が多いのもそうですが、聖女の場合勢いが強いのも良くない。もっと優しく。聖女は魔力量が多いので流すというより、一滴落とすくらいの感覚がいいかもれないですね。落とした魔力の粒を動かすイメージでしょうか」

私のアドバイスが反映され、おもしろいほど魔力の流れ方が変化する。素直なのか、器用なのか、きっとその両方なのだろう。

そういえば、先程王子に施していた癒しの魔法は、適度な魔力量だったように思えた。

「癒しの魔力は操作しやすいと感じますか?」

聖女は魔力を止めて少し考える。

「言われてみたらそうかも。癒しの魔法は最初からあまり魔力を使ってる感じがしなかったな。手術をイメージしてるからかな?血管を繋ぐ時の正確な縫合、そして結紮(けっさつ)

聖女が何やらブツブツ呟いて、指先を動かしている。目をつぶった聖女の頭の中で、その映像が再現されているのだろう。

「なるほど、この感覚か」

聖女が再び魔力を注ぎ始め、数回失敗を繰り返したあと、コップの水が綺麗に渦を巻いた。

「針先で軽く触れるくらいの魔力が丁度いいみたいだね」

針先で足りてしまうとは、恐れ入った。魔力量の多さ故なのか、質が格段に高いからなのか。そして、魔力操作を2日でマスターしてしまったことにも、驚きを隠せない。

まだ必要ないと思っていたが、この町の教会から、魔法の修行に必要な書物と道具を一式譲り受けることにしよう。

教皇の私が行けば騒ぎになると思って教会を訪れるのは控えていたが、故郷の町まで待つのでは時間が無駄になってしまう。

王子が旅の準備を始めてるので、数日待たずにこの町を離れることになるはずだ。

早速午後に教会へ行ってみよう。

練習を繰り返す聖女を眺めながら、頭の中で午後の予定を組み直した。